2012-01-01から1年間の記事一覧

自滅する選択〜先延ばしで後悔しないための新しい経済学〜、池田新介、東洋経済新報社p.284、\1890

行動経済学と心理学に関する啓蒙書。「ダイエットは明日から」とか「大事な仕事なのに後回し」といった自滅する行動パターンのメカニズムを明らかにし、後悔しないための改善策と対処法を伝授する。内容はけっこう高度だが、身近で分かりやすい事例を取り上…

100のモノが語る世界の歴史3〜近代への道〜、ニール・マクレガー著、東郷えりか・訳、筑摩選書、p.334、\2205

大英博物館の所蔵品100点を紹介する書の最終巻。1200年から2010年までをカバーする。現代に近い時代を扱っているとはいえ、興味深い所蔵物の数々にはつい引き込まれる。冒頭は「ホーリー・ソーンの聖遺物箱」。キリストが磔になる前にかぶっていた冠から抜き…

64[Kindle版]、横山秀夫、文藝春秋、999KB、\1600

評者が贔屓にする横山秀夫の新刊。期待通りの作品である。ミステリー好きだけではなく、多くの方にはお薦めだ。ベストセラーになっているのも納得できる。本書「64(ロクヨン)」は紙版だと647ページもある大著。通勤での持ち運びを考え電子版を購入した。ち…

外交プロに学ぶ 修羅場の交渉術、伊奈久喜、新潮新書、p.191、\714

日本経済新聞で外交・安全保障を担当してきた記者の手による、プロの外交官の交渉術と処世術。12の戦術を紹介している。外交の現場に何度も足を運んだベテラン記者らしい筆致のビジネス書である。ただし、外交交渉における丁々発止のやり取りや、知られざる…

海賊とよばれた男(下)、百田尚樹、講談社、p.370、?1680

出光興産の創業者・出光佐三(本書では国岡鐵造という名で登場)の生涯を描いた評伝の下巻。筋を通す明治男の活躍ぶりを活写している。上巻は、国岡鐵造の生い立ちから、国岡商店の創業、戦後の再建までをカバーしていた。下巻は、事業が軌道に乗り始めてか…

新幹線 お掃除の天使たち〜「世界一の現場力」はどう生まれたか?〜、遠藤功、あさ出版、p.189、\1470

JR東日本の子会社で、新幹線車両と新幹線構内の清掃を手掛けるJR東日本テクノハートTESSEI(旧社名・鉄道整備株式会社で通称テッセイで知られる)を紹介したビジネス書。多くのテレビ番組や雑誌で取り上げられたテッセイの現場と、強靭な現場力を生むまでの…

逆転無罪の事実認定、原田國男、勁草書房、p.256、\2940

8年間で24件の逆転無罪判決を言い渡した裁判官が、自らの判決を振り返った書。解説+判決文という構成で、冤罪を防いだ判決の舞台裏を明らかにする。かなり貴重な書である。被告人と初めて接する人定質問の大切さ、起訴状を読み上げるときに配慮すべき点、外…

寿命1000年〜長命科学の最先端〜、ジョナサン・ワイナー、鍛原多惠子・訳、早川書房、p.321、\2415

人の寿命はいずれ1000歳に達する。こう語るのは、本書の主人公であるケンブリッジ大学のオーブリー・デ・グレイ教授。本書は、長寿科学研究の現状をグレイ教授の成果を中心に紹介したノンフィクションである。本書が指摘するように人生1000年を前提にすると…

MAKERS〜21世紀の産業革命が始まる〜、クリス・アンダーソン、関美和・訳、NHK出版、p.320、\1995

この書評で取り上げた「Free」「The Long Tail」の筆者クリス・アンダーソンの新著。インターネット産業から製造業へと、筆者の関心は移ったようだ。デジタル化された設計データ、インターネット環境、オープンソースの設計、3Dプリンタなどを駆使した「パ…

世にも奇妙な人体実験の歴史、トレヴァー・ノートン、赤根洋子・訳、文藝春秋、p.379、\1890

凄まじい人体実験の数々を紹介した書である。自分の理論の正しさを証明するために体を張る科学・医学者(マッド・サイエンティスト)たちの姿を取り上げている。リン病患者の膿を自らの性器に塗りつけてリン病と梅毒の感染経路を検証する、黄熱病患者のゲロ…

海賊とよばれた男(上)、百田尚樹、講談社、p.386、?1680

出光興産の創業者・出光佐三をモデルにした小説(帯にはノンフィクション・ノベルとある)。主人公の名前は出光佐三ならぬ国岡鐵造。官僚組織との対決などヤマト運輸の小倉昌男を彷彿とさせ痛快である。もっとも、ノンフィクション好きな評者としては実名で…

ケータイ化する日本語〜モバイル時代の“感じる"“伝える"“考える"〜、佐藤健二、大修館書店、p.293、?2415

タイトルからは、携帯電話の普及が日本語にどのような影響を与えたを解き明かした書のように思えるが、そう考えて買うと落胆するかもしれない。そもそも携帯電話についての言及は多くない。著者は、電話というメディアについて、歴史的や生物学的、社会的、…

一揆の原理〜日本中世の一揆から現代のSNSまで〜、呉座勇一、洋泉社、p.237、\1680

「一揆とは何だったのか」について論じた歴史書。一揆に関して持っている常識が、いかに間違っているかを思い知らされる。もっとも、副題に「日本中世の一揆から現代の SNS まで」、帯に「一揆の思想と行動原理は、現代のソーシャル・ネットワークに通じてい…

ヒトはなぜ眠るのか、井上昌次郎、講談社学術文庫、p.208、\798

睡眠学の入門書。睡眠について網羅的に紹介しており、実によくまとまっている。もともとは1994年に出版された本だが古さを感じさせないところは、睡眠学の第一人者の手によるところが大きい。筆者は講談社学術文庫版の前書きで、「本書は睡眠学の黎明期に執…

日本はなぜ開戦に踏み切ったか〜「両論併記」と「非決定」〜、森山優、新潮選書、p.223、\1260

日本社会の意思決定プロセスの致命的な欠点を鋭く突いた書。面白い。本書が取り上げるのは、第2次世界大戦の開戦プロセス。政府、陸軍、海軍、参謀本部、外務省の首脳はそれぞれに都合のよい案を併記し決定を先送りした。日本お得意の玉虫色の文章だ。矛盾…

山中伸弥先生に、人生とiPS細胞について聞いてみた、山中伸弥、緑慎也、講談社、p.194、\1260

帯には「祝・ノーベル賞受賞! 唯一の自伝」とある。自伝とは少々オーバーな気もするが、2012年のノーベル生理学・医学賞を受賞した山中教授自身が断片的にこれまでの人生を語っているのは事実。本書はジャーナリストの緑慎也が山中教授へのインタビューをも…

毒になるテクノロジー〜iDisorder〜、ラリー・D・ローゼン、ナンシー・チーバー、マーク・キャリアー、児島修・訳、東洋経済新報社、p.321、\1520

評者は先日バリを旅行したが、町中のカフェやレストランは必ずと言って「Free Wi-Fi」の看板がかかっている。注文もそこそこに、まず店員にパスワードを聞きスマートフォンやタブレット PC でネットにアクセスする。Wi-Fi の調子悪いとすぐに店員にチェック…

ネットと愛国〜在特会の「闇」を追いかけて〜、安田浩一、講談社、p.370、\1785

在特会(在日特権を許さない市民の会)の活動を追ったルポルタージュ。寡聞にして知らなかったが、在特会は1万人を超える会員を抱える日本最大の保守系市民団体である。「在日コリアンをはじめとする外国人が」「日本で不当な権利を得ている」と主張して勢力…

ネゴシエイター〜人質救出への心理戦〜、ベン・ロペス、土屋晃・訳、近藤隆文・訳、柏書房、p.380、\2310

ネゴシエーターと言われて思い出すのは、サミュエル・L・ジャクソンとケヴィン・スペイシーの映画「交渉人」。無実の罪を着せられた警察ビルに立てこもったサミュエル・ジャクソンと交渉人ケヴィン・スペイシーを中心とした映画は、最後のどんでん返しを含め…

化石の分子生物学〜生命進化の謎を解く〜、更科功、講談社現代新書、p.240、\798

化石のDNAやタンパク質、今生きている生物のDNAを分析・解析して人類の進化史を探る「古代DNA研究」を紹介した書。研究成果だけではなく、解析法や解析ツールなども丁寧に解説している。「ネアンデルタール人は現生人類と交配したか(我々にネアンデルタール…

工学部ヒラノ教授の事件ファイル、今野浩、新潮社、p.206、\1575

今野浩 東工大名誉教授が有名大学の内実を暴露した書。タイトルは筒井康隆の「文学部唯野教授」を意識しているが小説ではない。筆者によると、一部に仮名を使っているものの97%は真実ということなので、ノンフィクションという位置づけになる。筆者は前著「…

貧乏人の経済学〜もういちど貧困問題を根っこから考える〜、アビジット・V・バナジー、エスター・デュフロ、山形浩生・訳、みすず書房、p.408、\3150

貧困に対する見方が劇的に変わる書である。教えられることが実に多い。頭の中で考えた理論が実態とかけ離れており、貧困国と貧乏人に対するステレオタイプのイメージが間違っていることを、現場に根ざした精緻で定量的な研究に基づいて示している。学術的な…

図解・新幹線運行のメカニズム、川辺謙一、ブルーバックス、p.240、\924

1964年の開業以来、安全かつ大量に安定的に乗客を運んでいる新幹線。その運行の仕組みを詳細に解説した書である。運転の方法、社内検札を行う理由、列車ダイヤと時刻表、車両についてのティップス、運行管理や保守点検の仕組み、地震への備え、ミニ新幹線つ…

PlanB〜不確実な世界で生きのびるための11の法則〜、デイビッド・コード・マレイ、花塚恵・訳、東洋経済新報社、p.283、\2200

新しいマネジメントの在り方「適応マネジメント」を事例とともに紹介した書。変化の激しいビジネス環境のなかで、ビジネス・プランはすぐに陳腐化する。本書の帯にあるように、計画厳守は破滅への一歩である。重要なのが、状況に対して的確に適応した修正を…

コンピュータが仕事を奪う、新井紀子、日本経済新聞出版社、p.221、\1785

コンピュータに向く仕事、人間にしかできない仕事について論じた書。コンピュータの性能と機能は向上・拡大を続け、チェスの王者に勝つまでになった。人間の仕事のある部分は確実に奪われる。しかしコンピュータには得手不得手がある。コンピュータにできな…

ヒット商品を生む観察工学〜これからのSE,開発・企画者へ〜、山岡俊樹編著、共立出版、p.232、\3045

この書評で7月に取り上げた「ビジネスマンのための『行動観察』入門」が面白かったので、参考文献として挙げられていた本書を購入。タイトルから分かるように観察工学の教科書だが、教科書臭さはあまりなく実践的で好感が持てる。観察工学とは「人間に関する…

閉じこもるインターネット〜グーグル・パーソナライズ・民主主義〜イーライ・パリサー、井口耕二・訳、早川書房、p.344、\2100

原題は「The Filter Bubble(フィルター・バブル)」。インターネットが自由でパブリックでオープンな場から、カスタマイズが進み個々のユーザーに最適化されたクローズドな場へと変容している状況に警鐘を鳴らした書である。Google、Amazon、Facebookなどの…

閉じこもるインターネット〜グーグル・パーソナライズ・民主主義〜イーライ・パリサー、井口耕二・訳、早川書房、p.344、\2100

原題は「The Filter Bubble(フィルター・バブル)」。インターネットが自由でパブリックでオープンな場から、カスタマイズが進み個々のユーザーに最適化されたクローズドな場へと変容している状況に警鐘を鳴らした書である。Google、Amazon、Facebookなどの…

途中下車〜パニック障害になって。息子との旅と、再生の記録〜、北村森、河出書房新社、p.237、\1500

筆者は日経TRENDYの前編集長。編集長として活躍していた40歳の秋に発症したパニック障害に対して、どのように向き合ったかを綴った書である。家族や会社、同僚などとの関係と、そのときどきの心の動きを詳細に描いている。実は日経ホーム出版と日経BP社が合…

失敗の本質〜戦場のリーダーシップ篇〜、野中郁次郎、杉之尾宜生、戸部良一、土居征夫、河野仁、山内昌之、菊澤研宗、ダイヤモンド社、p.336、\1890

1984年に出版された「失敗の本質」の続編。日本軍の幹部の失敗と(数少ない)成功を題材に、リーダーと組織の在るべき姿を論じる。前作同様、事例が豊富で読み応えがある。一方で「続編がベストセラーの前作を上回ることは難しい」という一般則を改めて思い…