2013-01-01から1年間の記事一覧

[書籍

]すぐれた意思決定〜判断と選択の心理学〜、印南一路、中公文庫、p.323、\648(ただし絶版) 質の高い意思決定を行う秘訣を説いたビジネス書。ポイントは人間が陥りやすい誤りを自覚し、それを回避して意思決定を行う方法を解説しているところ。イケイケどん…

卵子老化の真実、河合蘭、文春新書、p.253、¥893

先日の書評で取り上げた「産みたいのに産めない〜卵子老化の衝撃〜」と同じテーマを、“日本で唯一の出産ジャーナリスト”が扱った書。20年あまり出産を取材してきた著者らしく、取り上げる内容は的確で読み応えのある内容に仕上がっている。「産みたいのに産…

プルトニウムファイル〜いま明かされる放射能人体実験の全貌〜、アイリーン・ウェルサム、渡辺正・訳、翔泳社、p.600、\2625

凄まじい取材力に圧倒されるノンフィクションである。プルトニウムを人間に注射し、放射能の影響を調べる人体実験が国家の名のもとに米国で繰り返されていた事実を丹念な取材をもとに追っている。人体実験に関与した医者や科学者の行状を明らかにするととも…

英国一家、日本を食べる、マイケル・ブース、寺西のぶ子・訳、亜紀書房、p.280、¥1995

英国のトラベル/フード・ジャーナリストが家族同伴で日本を食べ歩いた100日間を綴った書。東京、横浜、札幌、京都、大阪、沖縄、福岡と行動範囲は実に広い。よく知られた名店、玄人筋がひいきにする一見さんお断りの店、ごく庶民的な店と紹介される店はバラ…

太陽 大異変〜スーパーフレアが地球を襲う日〜、柴田一成、朝日新書、p.211、\798

京都大学の天文台長で太陽物理学者の筆者が、最新の研究成果をもとに太陽の素顔に迫った書。大爆発(スーパーフレア)や黒点が生じる仕組み、地球に与える影響について論じる。新書らしい内容で、ちょっとした知識を身につけるのに役立つ。太陽の物理に関す…

鼻の先から尻尾まで〜神経内科医の生物学〜、岩田誠、中山書店、p.224、\2940

神経内科医が人間の体の不思議を、鼻の先から尻尾にわたって解説した書。編集者の試みは悪くないが、一つひとつの部位の説明が短いのと、専門用語を無造作に多用している面があり、素人には読みづらい。筆者は洒脱な学者のようだが、それを活かしきれていな…

クレイジー・ライク・アメリカ:心の病はいかに輸出されたか、イーサン・ウォッターズ、阿部宏美・訳、紀伊國屋書店、p.342、\2100

米国が心の病気を輸出していることを、香港の「拒食症」、スリランカの「PTSD」、ザンジバルの「統合失調症」、日本の「うつ病」を例に挙げて論じたもの。うつ病の話はなかなか衝撃的だ。米国人は精神疾患の概念を輸出し、その疾病分類や治療法を世界標準に…

産みたいのに産めない〜卵子老化の衝撃〜、文藝春秋、p.259、\1470

2012年6月放送のNHKスペシャルを単行本化したもの。リアルタイムで番組を見られなかったのが残念である。本書は読むと切なくなると同時に、不妊に関する知識の欠如を思い知らされる。英国の大学教授は、「日本は不妊についての正しい知識が不足しているうえ…

のめりこませる技術〜誰が物語を操るのか〜、フランク・ローズ、島内哲朗・訳、フィルムアート社、p.439、¥2310

さほど期待せずに読み始めた本が、意外にも“当たり”だった経験が1年に何回かある。本書はそんな1冊だ。米WIRED誌の編集者兼ライターでIT業界に詳しい筆者らしく、テレビや映画といったエンタテインメントのほか、広告、ゲームなどの製作者が、どのような工…

Slingshot: AMD's Fight to Free an Industry from the Ruthless Grip of Intel、Hector Ruiz、Greenleaf Book Group Llc、p.200、¥2426(原書)/¥644(Kindle版)

米AMDでCEOを務めたHector Ruizが、米Intelとのバトル、提訴までの経緯、パソコン・メーカーとの駆け引き、製造部門の分離など在職中の出来事を振り返った書。出色なのは、やはりライバルIntelを巡る話。IntelがAMDの追い上げをかわすために、パソコン・メー…

「フクシマ」論〜原子力ムラはなぜ生まれたのか〜、開沼博、青土社、p.412、\2310

このところ集中的に読んでいる社会学者・開沼博のデビュー作。3.11直前に行った福島原発の周辺地域のフィールドワークがベースになっている。筆者が前書きで書いているように、2011年3月11日以前の福島原発について書かれた最後の学術論文である。本書を読む…

習慣の力、チャールズ・デュヒッグ、渡会圭子・訳、講談社、p.394、\1995

ニューヨーク・タイムズ紙のベストセラー欄にずっと居座っている書。気になっていたが、ようやく日本語訳が出たので購入。「キーストーン・ハビット(要となる習慣)」と呼ぶ良い習慣を増やせば、人生や生活、ビジネス、社会は劇的に改善することを、豊富な…

空気」の研究、山本七平、文春文庫、p.237、\490

やはり名著だった。「空気」の研究は、大学生のときに月刊文藝春秋で読んで切り口の鋭さと説得力に感銘を受けた記憶がある。それから35年。文庫本で再読したが、まったく古びていない。むしろ東日本大震災以降の状況を見事に言い当てている。読むほどに凄み…

センス入門、松浦弥太郎、筑摩書房、p.159、\1365

暮しの手帖編集長が考える、センスよく生きるための書。「センスのいい人とは?」「センスを磨くアイデア」「センスの手本」について持論を展開する。筆者の趣味が装丁やイラストなど本全体に反映されており、紙ならではの趣をもつ書籍に仕上がっている。肩…

プライドの社会学〜自己をデザインする夢〜、奥井智之、筑摩選書、p.256、\1680

「プライドとは何か」について、自己、家族、地域、階級、用紙、学歴、教養、宗教、職業、国家と10の切り口から解き明かした社会学の書。プライドといえば心理学的な側面から語られることが多いが、実は「社会的な事象なのではないか」というが本書の出発点…

反省させると犯罪者になります、岡本茂樹、新潮新書、p.220、\756

悪いことをした人間を“反省”させても更生にはつながらないことを力説した書。筆者は立命館大学教授として教壇に立つとともに、刑務所で累犯受刑者の更生支援にも携わっている。刑務所や教育現場での体験に基づき、「犯罪者に反省させるな」「子どもに反省文…

内向型人間の時代〜社会を変える静かな人の力〜、スーザン・ケイン著、古草秀子・訳、講談社、p.360、\1890

ビジネスパーソンとしては損な性格と思われる内向型。筆者は、この俗説を事例や最新の知見に基づき覆す。内向型だからといって成功するわけではないが、ビジネスに成功するための資質として優れた面が少ないことを説得力をもって論じる。ここでいう内向型人…

「空気」の構造: 日本人はなぜ決められないのか、池田信夫、白水社、p.240、\1680

日本人の意思決定の構造を、山本七平の「空気の研究」や丸山眞男の言説にもとづいて論じた書。日本の企業や政治の「決められない」「変革できない」症候群の根本原因を探っている。名著「失敗の本質」を現代に当てはめて解説している感がある。精神主義が跋…

量子革命:アインシュタインとボーア、偉大なる頭脳の激突、マンジット・クマール、青木薫・訳、新潮社、p.527、\2800

本書を開いてすぐに目に飛び込んでくるのが、1927年に開かれた第5回ソヴェイ会議の写真である。アインシュタインやキュリー夫人を含め、錚々たる物理学者29人が居並ぶ。なんと29人のうち17人がノーベル賞を受賞する。本書は量子論100年を振り返る物理学者列…

幸福の計算式〜結婚初年度の「幸福」の値段は2500万円! ?〜、ニック・ポータヴィー、阿部直子・訳、阪急コミュニケーションズ、p.304、\1680

幸福とは定量化できるものであり、測定されなければならないという信念のもと「幸せや不幸の値段」を探った経済書。結婚、離婚、子ども、友情、仕事、死別、失業、障害など人生における数々の出来事の経済価値を論じている。例えば結婚初年度の幸福は2500万…

歴史を変えた外交交渉、フレドリック・スタントン、佐藤友紀・訳、原書房、p.339、\2940

米国の独立交渉やナポレオン戦争後のウィーン会議、日露戦争のポーツマス講和条約など、歴史の教科書で取り上げられている外交交渉の舞台裏を、臨場感タップリに活写した書。事実は小説より奇なりを地で行ったような興味深い内容の連続で、つい引き込まれて…

フクシマの正義〜「日本の変わらなさ」との闘い〜、開沼博、幻冬舎、p.380、¥1890

この書評でも取り上げた「漂白される社会」で今注目の若手社会学者・開沼博が、一つ前に上梓した評論集。雑誌や新聞などで発表した福島原発事故関連の原稿を集めたものなので、ダブり感や整合性の面で気になる所が散見されるが、筆者の地に足の着いた社会観…

鳩居堂の日本のしきたり 豆知識、鳩居堂・監修、マガジンハウス、p.208、\1575

鳩居堂といえば、路線価日本一の場所に店を構える和文具の老舗である。てっきり東京の店だと思い込んでいたが、創業の地は京都の本能寺門前。今年の京都マラソンの前日に京都・寺町をブラブラしていたときに、初めてこの事実を知り非常に驚いた。本書は、創…

増補新版 霊柩車の誕生、井上章一、朝日文庫、p.288、\756

霊柩車の歴史を扱ったマニアックな書だが、中身はきわめてまじめ。霊柩車の誕生や変遷に始まり、葬送などの日本風俗史にまで言及する。難点は内容が古いこと。初版は1984年だが、内容はもっと古びた感じだ。とくに写真が粗く汚いのは残念である。文庫化にあ…

インフォメーション:情報技術の人類史〜、ジェイムズ・グリック、楡井浩一・訳、新潮社、p.589、\3360

情報技術の歴史を壮大なスケールで描いた書。訳者が後書きに書いているように叙情詩という表現がピッタリである。600ページに迫るページ数にも驚くが、生物学、言語学、遺伝子学、脳科学に言及し、学問の枠を超えて縦横無尽に持論を展開する筆者の筆力も大し…

Lean In: Women, Work, and the Will to Lead、Sheryl Sandberg、W H Allen、p.256、¥1990(ペーパーバック版)/\1377(Kindle版)

このところ日本のメディアでさかんに取り上げられている、米Facebook COOのシェリー・サンドバーグの書。女性の社会進出の難しさ、ガラスの天井、仕事と家庭の両立問題を、自らの体験やIT業界の著名人のコメント、各種の調査を駆使して論じている。世界銀行…

藤原道長の日常生活、倉本一宏、講談社現代新書、p.288、\840

藤原道長が綴った日記「御堂関白記」(世界最古の自筆日記)に基づき、道長や平安貴族の日常生活、平安時代の風習・風俗などを解説した書。筆者は、自筆日記の書き方や書き換え、抹消、誤字などから道長の心象風景を推察する。このあたりの手法はなかなか面…

レジリエンス 復活力〜あらゆるシステムの破綻と回復を分けるものは何か〜、アンドリュー・ゾッリ、アン・マリー・ヒーリー、須川綾子・訳、ダイヤモンド社、p.416、\2520

災害や事故・事件のような急激な状況変化に適応できる組織や機関、システムをどうすれば構築できるのか。本書はレジリエンス(resilience)と呼ぶ研究分野をキーワードに、適応力の高い社会の在り方と構築の仕方を論じている。示唆に富む議論の展開と豊富な事…

漂白される社会、開沼博、ダイヤモンド社、p.488、\1890

元ライターで現在は東大の博士課程に在籍する社会学者の書。さすがにAERAや文芸春秋などで鍛えられただけあって、地に足の着いた社会論になっている。理屈をこねくり回し、すんなり理解できない内容の社会学の書籍とは一線を画している。教えられることの多…

鳥類学者 無謀にも恐竜を語る、川上和人、技術評論社、p.272、\1974

文句なく楽しめる恐竜学の啓蒙書。ここ10年ほどの恐竜学の進展は目覚ましく、鳥類と恐竜の関係に対する見直しが進んでいるという。本書は鳥類学者である著者が、最新の研究成果とともに鳥類の祖先に当たる恐竜について縦横無尽に語る。軽妙な語り口も良いア…