レジリエンス 復活力〜あらゆるシステムの破綻と回復を分けるものは何か〜、アンドリュー・ゾッリ、アン・マリー・ヒーリー、須川綾子・訳、ダイヤモンド社、p.416、\2520


 災害や事故・事件のような急激な状況変化に適応できる組織や機関、システムをどうすれば構築できるのか。本書はレジリエンス(resilience)と呼ぶ研究分野をキーワードに、適応力の高い社会の在り方と構築の仕方を論じている。示唆に富む議論の展開と豊富な事例は非常に読み応えがある。今年読んだ書籍ではNo.1だ。ちなみにレジリエンスは辞書的には、「(元気の)回復力・復元力」「障害や誤りが存在しても、要求された機能を遂行し続けることのできる能力」である。
 筆者は冒頭でレジリエンスについてこう述べる。「レジリエントなシステムはいさぎよく失敗する。危険な状況を避け、侵入を察知し、部分的な被害を分離して最小化し、資源の供給源を多様化する。必要とあれば縮小した態勢で稼働し、破壊されると自ら再構築して回復を図る。レジリエントなシステムはけっして完璧ではない。現実はむしろその反対だ。一見完璧なシステムはきわめて脆弱であることが多く、ときとして失敗を伴うダイナミックなシステムはこのうえなく頑強になりうるのだ」。約30ページの序章を読むだけでも価値がある。
 本書の特徴は、自然環境、都市環境、金融システム、個人(脳)、結核菌、テロ組織、電力網など幅広い分野についてレジリエンスに言及している点。例えば第1章では、インターネットや金融市場などを「頑強だが脆弱な(RYF:robust-yet-fragile)」なシステムと位置づける。予測される危険に対してはレジリエントだが、予期せぬ脅威にはきわめて弱い。これらのシステムの脆弱性を増幅するのは複雑さ、集中度、同質性であり、レジリエントを高めるのは適正な単純さ、局所性、多様性、透明性だと筆者は主張する。なかなか含蓄のある指摘だ。
 クライマックスはハイチ大地震の救援プラットフォーム「ミッション4636」。インターネット、ボランティア、オープン・システムがグローバルに機能し、ハイチ大地震の被災者を世界規模で支援した組織だ。筆者はミッション4636が構築される過程を克明に描いている。ここで登場するリーダーは、従来型の豪腕タイプとはまったく異なっているのが興味深い。組織の各階層に自由自在に働きかけ、蚊帳の外におかれたグループを引き込み、関係者が互いに理解し合うための通訳を務めるリーダーという。いろいろと考えさせられる書である。