プルトニウムファイル〜いま明かされる放射能人体実験の全貌〜、アイリーン・ウェルサム、渡辺正・訳、翔泳社、p.600、\2625


 凄まじい取材力に圧倒されるノンフィクションである。プルトニウムを人間に注射し、放射能の影響を調べる人体実験が国家の名のもとに米国で繰り返されていた事実を丹念な取材をもとに追っている。人体実験に関与した医者や科学者の行状を明らかにするとともに、実験の対象になった人たちの人生にも迫る。半世紀にわたって隠されていただけに、取材に困難が伴うのは想像に難くない。筆者は、ピューリツァー賞を受賞したこともある米国人ジャーナリストで、その力量をいかんなく発揮している。ちなみに本書は2000年に刊行された同名の書籍に加筆・修正を加えた新装版。原子力にまつわる歴史を知ることができる良書である。
 本書は、冷戦時代に数千回の放射能人体実験が行われ、その被験者の大半が貧者か弱者か病人だったことを明らかにする。プルトニウムを注射されたのは18人。このほか、829人の妊婦に放射性の鉄を投与したり、74人の施設の子どもへの放射性物質投与、700人以上の患者に対する全身照射、131人の囚人の睾丸への放射線照射などやりたい放題だった。米原子力委員会は、これらの事実をひた隠しに隠した。
 クリントン政権は1995年に、放射能人体実験に関する報告書を発表し謝罪した。ところが、同じ日にO.J.シンプソン裁判の無罪評決が下ったこともあり、マスコミの扱いは小さかった。恥ずかしながら評者も、この事実を本書を読むまで知らなかった。