藤原道長の日常生活、倉本一宏、講談社現代新書、p.288、\840


 藤原道長が綴った日記「御堂関白記」(世界最古の自筆日記)に基づき、道長や平安貴族の日常生活、平安時代の風習・風俗などを解説した書。筆者は、自筆日記の書き方や書き換え、抹消、誤字などから道長の心象風景を推察する。このあたりの手法はなかなか面白い。道長といえば有名な短歌「この世をばわが世とぞ思ふ望月の欠けたる事も無しと思へば」である。栄華を極めた権力者というイメージが強いが、筆者は傲慢さと小心さが同居する人間・道長を明らかにする。教科書の登場人物の実像を知ることができるので歴史好きの方にお薦めの1冊である。
 本書は、感情表現、宮廷生活、妻・倫子の素顔、次々に中宮にした娘たちとの関係、自宅や御所といった生活環境、宗教や禁忌などの精神生活といった角度から道長の人間像を描く。泣き虫だが怒りっぽい道長の人間像も興味深いが、評者の興味を引いたのは平安貴族の生活。徹夜で短歌を競い合ったあとに、そのまま仕事場に向かうなど実にタフである。平安貴族というとナヨナヨしたイメージをもっていたが、先入観を覆された。本書には京都事件帳といった趣もある。京都で起こった喧嘩や殺人、火事、天災なども紹介する。