Bill & Dave〜How Hewlett and Packard Built the World's Greatest Company,Michael S.Malone,Portfolio,p.438,$26.95

 William HewlettとDave Packardの評伝。読み応え十分の良書である。2人がどのように米Stanford大で出会い(巷間流布しているアメフトのグランドでの劇的な出会いはウソらしい),どのように米Hewlett-Packardを立ち上げ,育て上げたかを綿密な取材をもとに追っている。黎明期のHPを支えたDisney,電卓,ミニコンYHPなど,話題満載である。HPという会社が,技術面やビジネス面だけではなく,文化的な面でもシリコンバレーに大きな足跡を残したかがよく分かる。作者のMichael S.Maloneは,The Big ScoreやThe Virtual Corporationなどベストセラーを生んだ技術ジャーナリスト。こんほか評者が読んだ本としてはThe Microprocessorといったものもある。
 古き良き時代のビジネスやシリコンバレーの香りがぷんぷんする本である。実に爽やかだし,ヒューマニズムがあふれている。筆者のMaloneは,Hewlett-PackardやHP Way大好き人間というのが行間からにじみ出ている。半ば信仰的でさえある。若干度が過ぎ,ほめ過ぎの気もするほどだ。その分,HewlettやPackardの後継者に対しては容赦ない批判を加える。YoungやPlattはまだしも,Compaqを買収したものの業績不振で解任されたFiorinaに対しては実に辛らつでコテンパンである。HPはCompaqを買収したからこそ,IBMを抜いて世界一のコンピュータ・メーカーになった訳だが,HP Wayをはじめ,そのために失ったものがどれだけ大きかったかを,Maloneは詳細に書き込んでいる。
 本書を読むと,技術者肌のHewlettと外交的なPackardという絶妙のコンビがHPの要因だということがよく分かる(本書では,Hewlettをcraftman,Packardをgamesmanと呼んでいる)。米IntelにおけるMooreとNoyce,米AppleのWozniakとJobs(ちなみにWozはHPで働いていたことがある),ホンダの本田宗一郎藤沢武夫ソニー井深大盛田昭夫に通じるものがある。必要なときに,必要な人材を,必要な場所に,適切かつ絶妙な組み合わせで配材する。こうした書を読むと,世の中は実に良くできていると感心させられる。