沖縄密約〜「情報犯罪」と日米同盟,西山太吉,岩波新書,p.211,\700

 沖縄返還交渉の密約を35年前にスクープしたものの,機密漏洩罪に問われた元毎日新聞記者の西山太吉氏の書。米国の情報公開による公文書や当事者だった外務省元アメリカ局長の吉野文六の証言になどによって明らかになった事実を基に構成している。読み応え十分の執念の書といえる。密約で米国に支払った金額が,実は西山がスクープした数字とは違い,桁違いに大きい“つかみ金(積算根拠が明確ではない金)”だったなど興味深い記述が多い。密約は大昔の話と思えるが,現在の日米関係の源流となって現在に大きな影響を与えていることがよく分かる。
 西山記者が起訴されたときに司馬遼太郎が「われわれは,恐るべき政府をもっている」と語ったのに対し,西山は「われわれは,憐れむべき政府をもっている」と嘆くが,本書を読むとその気持ちがよく伝わってくる。正直言って,本書を読み終わると暗澹たる気持ちになる。当事者(吉野は密約にイニシャルだが署名している)の証言や外交文書の公開があっても,かたくなに密約の存在を否定し続ける政府や官僚の姿はどう表現すればいいのだろうか。西山が“憐れみ”という言葉を使うのも頷ける。加えて,外交や安保に対する日本における社会的関心の低さ,マスコミの力の弱さを痛切に感じる1冊である。