自販機の時代〜“7兆円の売り子”を育てた男たちの話,鈴木隆,日本経済新聞社,p.299,\1800

 自動販売機を介した物品の売上高は7兆円超で,コンビニの売り上げに匹敵するという。本書は,日本の自動販売機市場を立ち上げ,育て上げた人たちにスポットライトを当てている。最後の方に若干疲れが感じられるところもあるが,なかなか読み応えのある書に仕上がっている。地味なテーマをうまく料理しているといえよう。

 話の中心は自販機の雄である富士電機三洋電機の自販機部門を買収し,いまや押しも押されぬナンバーワン企業になっている。その礎を築いた永井隆が前半の主役である。富士電機を軸に,三菱重工三洋電機松下電器サンデンといったメーカーの動向を交えながら話は進んでいく。自販機の話らしく,コカ・コーラペプシコーラ,キリン,アサヒと馴染みの社名が続々登場する。古き良き爽やかな時代を懐かしむといった趣きもある。

 確かに,同時期に読んだWilliam HewlettとDavid Packardの物語「Bill & Dave」に比べればすいぶん地味で泥臭い話の連続である。それだけに,農耕民族の琴線にいっそう触れるのかもしれない。往年の経営者や技術者,営業マンへの筆者の共感が汲み取れる内容になっている。