大本営参謀の情報戦記〜情報なき国家の悲劇〜堀栄三,文春文庫,p.348,\514

 日本陸軍大本営で情報参謀を務め,戦後は自衛隊倒幕情報室長だった筆者が,実体験に基づき日本軍の情報音痴ぶりを書き綴った書。実に貴重な記録である。敵を外部(この場合は米国)ではなく内部(陸軍vs海軍)に求める内向きの態度など,今に通じる話が多く参考になる部分が多い。「日本人はどうも持久,遅退,防御が不似合いの性格」というフレーズを読むと,1点を守りきれない日本サッカーを思いこさせる。記述に繰り返しが多いのが少し気になるが,一読に値する良書である。
 このコラムで取り上げた「日本軍のインテリジェンス〜なぜ情報が活かされないのか」など,日本軍における情報センスの構造的欠陥を取り上げた類書は多いが,当事者が反省を込めて書いているところが本書の最大の特徴となっている。前書きで「実体験を失敗や錯誤も包み隠さず紹介」と述べているが,その通りの内容である。「日本軍のインテリジェンス」では,三つの問題点「作戦重視、情報軽視」「長期的視野の欠如」「セクショナリズム」を挙げていたが,本書にはそれを裏書きする具体例が記述されている。山下奉文の素顔や権力の椅子を欲しがって政治に狂奔する軍人の様子など,サイドストーリーもなかなか読ませる。
 「情報は常に作戦に先行しなければばらない」と主張する筆者の堀は,米軍の行動パターンを詳細に分析し,どのような手を打つかを次々に的中させた実績をもつ。米軍の攻撃パターンをまとめた「敵軍戦法早わかり」という小冊子を作り,米軍の迎撃に貢献した。