Grand Theft Childhood:The Surprising Truth About Violent Video Games and What Parents Can Do,Lawrence Kutner,Cheryl K. Olson 共著,Siom & Schuster,p.260,$25

minami_chaka2008-06-15

 ビデオゲームは子供にとって有害かどうかを調査した結果を紹介するとともに,親の子供に対する接し方を論じた書。後者は付け足しの感が強い。前者の結論は子供の暴力とビデオゲームとの間に強い相関は見られないというもの。メディアによって子供の暴力事件が針小棒大に扱われた結果,ビデオゲームの暴力シーンの影響が誇張されて世間に伝わったと断じる。むしろ交友関係を築くなど,子供の社会性を養う上で重要な役割を果たしていると指摘する。さらにビデオゲームが空間把握力を高める効果があり,エンジニアリング領域への女性の進出に役立つという指摘も行っている。
 「子供に悪い」という主張は,新しいメディアが登場するたびに同じ議論が繰り返されている。時間がたち新メディアでなくなる(別のメディアが勃興する)と雲散霧消すると著者は指摘する。古くは書籍(焚書),映画,ラジオ,テレビ,漫画だって同じ経過をたどったことを検証している。そもそも子供は親が考えるほど馬鹿ではなく,親の価値観を受け継ぎ,適切な判断を下してゲームをつきあっていることをヒアリングに基づいて指摘する。
 本書の基になっている調査は司法省が150万ドルを出し, Harvard Medical School Center が中心となって2004年から「暴力ビデオと子供」というテーマで行われたものである。内容にそれほど驚きはないが,米国で行われているゲームのレーティングの仕組みは興味深い。本書のタイトルとなっている「Grand Theft Auto」は暴力シーンが問題視されたゲームで,M(mature)というレートがつけられている。レートは EC(Early Childhood)から AO(Adult Only:18歳以上)まで6段階に分かれており,M は17歳以上で上から2番目のランクである。AO とM はたった1歳しか違わないのは不思議な感じがするが仕方がない。ちなみに著者はメンタル・ヘルスの研究を手がける 米 Harvard Medical School Center の共同創設者である。著者紹介によると,Lawrence Kutner は児童心理学者として有名らしい。