磯崎新の「都庁」―戦後日本最大のコンペ,平松剛,文藝春秋,p.476,¥2300

minami_chaka2008-10-10


 1985年に行われた,新宿の新都庁舎コンペをめぐる虚々実々の駆け引きを,建築家・磯崎新を軸に描いたノンフィクション。建築のコンペの舞台裏が垣間見えるし,登場人物が人間味にあふれていて楽しく読める1冊である。とりわけ秀抜なのが,磯崎の師匠に当たる丹下健三。主人公を引き立てるためのバイアスが多少感じられるものの,老練というか,狡猾というか,大建築家の個性が生き生きと描かれている。「ぶっちぎりで勝とう」を連呼する姿にすさまじい執念を感じる。それにしても丹下が描く都市計画のスケールの大きさには驚かされる。傑物である。
 新都庁は結局,丹下が設計した高層ビル「ツインタワー」になるが,本書は磯崎が設計した,コンペで唯一提出された「低層案」に焦点を当てる。模型(これは実にすばらしい)やイラストが掲載されているので,その魅力はおおよそ想像できる。磯崎のアイデアのエッセンスを,丹下がフジテレビのお台場・新本社ビル設計に借用したかに思えるところは実に興味深い。
 筆者は,『光の教会――安藤忠雄の現場』で大宅壮一ノンフィクション賞を受賞している。早稲田の建築学科を卒業し現在も建築設計事務所に勤務するが,文章力はなかなかのものである。コンペの仕組みや日本の建設界の歴史にも言及しており,建築好きの方にはお薦めの1冊である。