深層「空白の一日」,坂井保之,ベースボール・マガジン社新書,p.235,¥819

minami_chaka2008-10-12


 初めて読むベースボール・マガジン社の新書。著者はコンサルタントからプロ野球界に転じ,球団社長や球団代表で辣腕をふるった人物。経営の分かるフロントとして活躍し,西武の黄金時代を築いたことは有名である。その人物から見たプロ野球界の不合理を綴ったのが本書。タイトルを見ると江川事件の舞台裏が全編にわたって書かれているような印象をもつが,6章のうち2章を割いているに過ぎない。少々ミスリードだろう。
 全体を貫くのは,球界に巣くう巨人的体質への反感である。巨人そのものはもちろんだが,江川事件や1リーグ騒動(あのホリエモン楽天が新球団設立で競合)を例に,その横暴を許す球界自体の前近代性を問題視する。江川騒動が起こったのは1978年11月21日である。「空白の一日」という詭弁を使ってドラフト制度を破り,巨人は江川の入団を強行した。筆者は,このときのドラフトに参加した当事者として舞台裏でのバタバタ劇を描いている。江川の自宅を訪問したときの父親との会話や,巨人と他球団の駆け引きは実に生々しい。政治家やその取り巻きが登場して胡散臭さと腐臭が漂う話である。