オタクで女の子な国のモノづくり,川口盛之助,講談社,p.237,¥1575

minami_chaka2008-11-03


 日本人が自ら弱点と考えている「オタクっぽい」「子供っぽい」といった特質を活用すれば,世界にアピールする製品・サービスが可能になると主張するビジネス書。日本の製品作りで How(いかに作るか) から WHat(何を作るか)への転換が重要になっていると,著者は前書きで主張している。これはもう10年以上も前に盛んに行われた議論で,著者のセンスを疑わせ前途多難を思わせる書き出しであるが,全体的には読ませる内容に仕上がっている。『頑張れニッポン』を意識するあまり,議論の進め方が少々強引なところは本書の趣旨を考えれば仕方がないだろう。ちなみに著者は,日立製作所やなどを経てアーサー・D・リトル・ジャパンで製造業の研究開発や商品開発のコンサルティングを行っている。
 著者は,トイレで用を足すときの音を擬音で消す「音姫」,お馴染みのウォシュレット,野菜のビタミンを増加させる冷蔵庫,抗菌コートの預金通帳などを,日本的なユニークな製品・サービスとして挙げている。確かに,日本人の便利さに対する要求度の高さを納得できる事例が並ぶ。こうした製品から筆者は10の法則を導く。(1)擬人化が大好き,(2)カスタマイズを志向する,(3)人を病みつきにさせる,(4)寸止めをねらう,(5)かすがいの働きをする,(6)恥ずかしさへの対策となる,(7)健康長寿を追求する,(8)生活の劇場化を目指す,(9)地球環境を思いやる,(10)ダウンサイジングをはかる。的を射た指摘もあるが,10項目にこだわったためか無理も見える。上記の10項目は,筆者の意図に反し日本の製品・サービスをオーバースペックにしている元凶が並んでいるともいえる。最後に筆者は「ガラパゴス論」を欧米式の論理に基づく誤った理屈と一笑に付しているが,これには少々疑問が残る。