医学は科学ではない,米山 公啓,ちくま新書,p.203,¥714

minami_chaka2009-01-25


 医学とは医者と患者でつくる幻想---筆者はこう語る。医学に関する迷信と日本の医学会の根深い問題などに切り込んでいる。「臨床医学の虚構を暴く」と宣伝文句にあるが,これはちょっと大げさ。確かに学閥中心の日本の医学研究やダイエット情報の嘘,BMIの虚構といった話は出てくるが,全体から見ればミスリード気味。臨床の現場がどのようなものか垣間見える好著である。
 本書を読むと,「医学は科学ではない」というのがよく分かる。例えば,EBM(実証に基づく医療)による診断や治療が行われているのは医療行為の半分に満たない。医者の経験に基づく判断と勘で治療がなされている。勘と経験と度胸がものを言うソフトウエア開発現場とよく似ている。平均値医療の限界にも言及する。平均的に効く治療法や薬品にのみ価値を置いているため,個性を重視し遺伝子の違いを考慮するようなテーラーメード医療にほど遠いと主張する。医療とビジネスの関係も微妙である。例えばMRI。日本のMRI普及率は世界一だが,投資に見合う収入を得るには年間100件の開頭手術が必要。ところが,これをクリヤできる病院は少ないために,投資をまかなうために脳ドックに走ったというわけである。
 サプリメントや民間医療に対する著者の見方は興味深い。いずれも西洋医学から見れば科学的根拠に乏しい面がある。しかし西洋医学は科学的な解決を目指しすぎたために,患者の心とは別の方向を向いてしまった。それを補うのがサプリメントであり,代替医療鍼灸カイロプラクティック,アリマテラピーなど)というのが著者の見立てである。最後にこう述べる。「医者も30年くらい続けているとほとんど同じ結論に達する。医学の限界と,西洋医学以外の存在を肯定するようになること,医者は患者から学ぶべきことが多いと気づくのだ」。