大平正芳〜「戦後保守」とは何か〜,福永文夫,中公新書,p.300,¥882

minami_chaka2009-03-12

 大平正芳が総選挙のさなかに亡くなったのは1980年6月。評者が大学を卒業する年だった。その大平は,大蔵官僚から政界入りし,池田勇人を支え保守本流の道を歩みながら,最終的には総理大臣まで上り詰めた。本書はその評伝で,コンパクトにまとまった新書らしい新書である。大平の人生だけではなく,戦後日本政治の流れをざっくり理解することができる。池田勇人佐藤栄作前尾繁三郎,「三角大福」のほか,現在の二世議員の親たちなど,懐かしい政治家が次から次へと登場する。本書から感じるのは,政治家だけではなく,学生運動をはじめとする日本社会の熱気である。日本はすっかり中年の危機に陥っているという思いを強くする。
 個性の強かった三角大福が活躍したのは,評者が高校から大学にかけてのころ。それにしても遠い昔の話になったものである。田中金脈,ロッキード事件,椎名裁定,三木おろしなど,ものすごい権力闘争・派閥抗争を繰り広げていた時代だった。本書は,田中角栄三木武夫福田赳夫についてはそれなりのページ数を割いて,いい意味でも悪い身でも,彼らの魅力紹介している。
 評伝を書くには,対象となる人物に“惚れる”必要があると思うが,本書の描く大平像にもその雰囲気は漂う。大平の知性と教養,品格,政治哲学,人生哲学,人間としての深みを詳細に描く。池田が首相になったときに大平は,「徹底的に庶民にならなければいけない。庶民と隔絶した意識と生活のなかからは,庶民の納得のゆく政治ないし庶民の協力が得られる政策は生まれてこない」と諭し,ゴルフを慎み,お茶屋への出入りを自粛するという二つの約束を取り付けたという。ついつい現在の政治家と比較したくなるが,あまりの惨状に考えるだけバカらしくなる。