巨大銀行の消滅〜長銀「最後の頭取」10年目の証言〜,鈴木恒男,東洋経済新報社,p.343,¥1995
日本長期信用銀行の最後の頭取だった筆者が崩壊に至るまでの過程と背景を詳述した書。筆者が頭取に就任した2カ月後に長銀が国有化されただけに,自己弁護を含めた悔しさがにじみ出た内容になっている。当時の状況を当事者が語ったという意味で貴重な証言といえるが,自らの判断の甘さを棚に上げ,官や政治,マスコミへの恨みつらみばかりが印象に残る。ちなみに当時の長銀経営陣は粉飾決算と違法配当の罪に問われたが,2008年に最高裁で無罪判決が下された。本書は,最高裁での判決を待って書かれたものである。
リーマンショックが起点となった今回の経済危機に役立つ知見が得られそうなものだが,嘆き節が前面に出てそのレベルに至っていいないのが惜しい。本書を読んで分かるのは,危ないと感じながらも無理やり屁理屈をつけて不動産融資にのめり込んでいく経営ミス,興銀になりたかった長銀の劣等意識,投資銀行という幻想,子会社の暴走を許したガバナンス欠如,経営会議の機能不全,コンサルティング会社の口車に安易に乗って組織や人事制度に手を入れた愚行といったところである。