死体の経済学,窪田順生,小学館101新書,p.224,¥756
知られざる葬儀業界を扱った書。アカデミー賞をとった「おくりびと」で脚光を浴びている納棺師もカバーしている。きっちりと取材したノンフィクションで,読み応えと驚きがある良書である。タイトルから移植に使うための人体売買を扱った「Body Bazar」(2001年に紹介)の類書だと早合点して購入したが,臓器売買にはまったく触れていない。
葬儀の費用は平均231万円だが,実はほとんど葬儀社の利益になる。タダ同然のドライアイスで1日8000〜1万円,使い回しの祭壇のレンタル料で30万〜100万円といった原価構造が,「葬儀屋は月に1体死体がでれば食っていける。月に2体死体がでれば貯金ができる。月に3体死体はでれば家族そろって海外旅行に行ける」という高い利益率を支える。
一部の葬儀社が力を入れるエンバーミング(遺体衛生保全)は興味深い。血液を抜いて,ホルマリンをベースにした固定液を注入することで,腐敗を防ぐとともに生きているような状態に遺体を保つ。公益社の場合,全葬儀件数の50%以上でエンバーミングが行われているという。15万円ほどかかるエンバーミングと同様の処置が,3000円で可能になる遺体防腐スプレー「ニュークリーンジェルスプレー」についても触れる。このスプレーが誕生するまでの経緯にはドラマがあり魅力的である。