高齢者医療難民,吉岡充,村上正泰,PHP新書,p.203,¥735

minami_chaka2009-04-12

 現役の医者と医療制度改革に携わった元厚労官僚(財務省から出向)が,高齢者医療制度の問題点を論じた書。構造改革財政再建がない交ぜになって医療と介護の現場を混乱させ,大量の高齢者を行き場のない状況に追い込んだと指摘する。最大の問題は,財政再建の旗印のもとに介護療養病床を廃止(あるいは大幅削減)を実行しようとしたところ。これが11万人の“医療難民”につながった。
 本書を読むと政府と官僚の無責任体制と“お上”意識がよく分かる。「我々エリートに任せておけ,下々のものは黙っておれ」と国民に白紙の委任状を出させておきながら,現場を知らない制度設計を行ってしまい,結局は破綻する。本書を読むと,医療制度のような国の根幹となる制度にもかかわらず設計がいかにも杜撰である。データに基づいた定量的な分析が行われるわけでもなく,行き当たりばったりに終始する。唯一存在するのは財政再建社会保障費の削減である。目標数字を達成するための辻褄合わせでお茶を濁し,将来に禍根を残ことになる。悲しくなるような実態を本書は明らかにする。
 「本質に目を向けず,表面上の問題ばかりをバッシングする」というマスコミの勉強不足への指摘も耳が痛い。思い当たることが多すぎて・・・