新世紀メディア論〜新聞・雑誌が死ぬ前に,小林弘人,バジリコ,p.301,¥1575

minami_chaka2009-06-03

 メインタイトルは月並みだが,副題の「新聞・雑誌が死ぬ前に」は強烈。確かに,ウェブメディアの台頭やサブプライム問題に端を発した経済危機によって,新聞・雑誌といった既存のメディア業界は大変な苦境にある。広告収入の激減や部数の減少が引き金になって,夕刊の廃止や有名雑誌の休刊が相次いでいる。本書は,危機に瀕する紙メディアと台頭著しいウェブメディアの在り方と今後を論じている。学者や評論家の空疎になりがちな話とは違い,現場体験に基づいた実践家の見解だけに説得力がある。筆者は日本語版ワイヤードやサイゾーを創刊,ガジェットを紹介するWebギズモード・ジャパンを立ち上げるなど,紙メディアとネットメディアの双方に通じている。日経ビジネスオンラインの寄稿を加筆修正して単行本化したのが本書である。
 筆者はこう指摘する。「高学歴な凡人サラリーマンのつくるメディアよりも,業態こそ違え,社会経験豊富な専門家の送り出すメディアの方が魅力的な時代」だと。ううむ,正鵠を射ている。辛いが反論できない。凡人・職業記者にとって生きにくい時代である。ちょっと手間をかければプロフェッショナルの見解にアクセスできる時代なので,凡人・職業記者の底の浅さは見透かされるし,頭で理屈をこねくり回しても空理空論はすぐに論破される。カンバンだけでは通用しない時代である。日経ビジネスオンラインにアップされた久保利英明弁護士のコメントにも通じる話である。久保利弁護士はこう語る。「今のように,インターネットで誰でも情報を発信できる時代に,メディアが素人に毛が少し生えただけ,中には毛も生えていないような人間に,影響力のある情報発信の場を安易に与えると,自らの首を絞めることになる」。
 しかし紙メディアや職業記者は捨てたモノではないと,評者は強く考えている。職業柄,多くの紙メディアとウェブメディアをアクセスしているが,ウェブメディアの限界を毎日のように感じている。ウェブメディアは玉石混淆で情報を得るには効率が悪いし,ビジュアル面の制約はいかんともしがたい。頭にす〜っと論点が入ってこないので気色が悪い。評者の読み方にも問題はあるのだが,論点と視野がピンポイントになりがちなので落ち着かない。見識と知識をあわせもつ訓練された職業記者の記事を紙メディアでしっかり読みたいと日ごろ思っている。筆者があとがきで書いているように,紙メディアはもっと「あがく」べきなのだと思う。その意味で,あがきたい人に対して「励ますこと・注意すること・触発すること」を基本機能とする本書の狙いは十分成功している。