「憂国」と「腐敗」〜日米防衛利権の構造〜,田中稔,野田峯雄,第三書館,p.415,¥2100

minami_chaka2009-06-23


 5兆円の防衛利権を扱ったンフィクション。口ではきれいごとの「憂国」を叫んでいる面々が,裏ではカネまみれで「腐敗」しているというのが本書の主張である。帯には,「憂国」の制服組と「腐敗」の背広組とあるが,これはミスリード気味である。妙な論文を発表して航空幕僚長を解任された田母神俊雄が少し登場するが,制服組の影は薄い。中心は政治家,防衛官僚,軍需産業,政商,怪しげなフィクサーたちである。多くは実名で登場するのでインパクトはある。
 一時期,大いに騒がれた守屋武昌防衛事務次官のスキャンダルを軸に話は進む。熱しやすく冷めやすいマスコミの常で守屋事件を忘れかけているだけに,本書のように冷静に後追いしてくれる書籍はありがたい。守屋をキャッチにしているが,筆者が本当に暴きたいのは「三菱重工をはじめとする軍需産業と政界の闇」。ただ話が整理されておらず,スイートスポットに当たっていない感じがある。切り口としては興味深いだけに,ちょっと残念である。
 防衛省軍需産業の内部文書,国会の議事録,裁判記録,不動産の登記簿,報道資料などを丹念に読み込んで矛盾を突いてストーリーを組み立てるのが筆者のスタイル。取材が日米の政界,官界,産業界と広範に及ぶこともあって,資料はA4判にして3mに及んだという。ただ田中金脈のように数字に語らせることのできる対象ならよいが,防衛利権ともなるとベールに覆い隠されている部分が多い。黒幕たちの用心深さは尋常じゃないし,年季が入っている。筆者も述べているが,国のシステムとしてビルトインされている感さえある。矛盾がわんさかあって状況証拠的には黒であっても,なかなか断定できない。掻靴掻痒の感が否めない。関係者への取材を通して足りない部分を埋め核心に迫る必要があるが,当然だが取材には容易に応じない。会えたとしても,言葉巧みにはぐらかす。悪条件が揃っていることを考えると,敢闘賞もののノンフィクションである。後編もあるようなので,次回は金星を挙げて殊勲賞といきたいところだ。