The Juggling Act:Bringing Balance to Your Faith, Family, and Work,Pat Gelsinger,Cook Communications Ministries Int,p.256,$13.99

minami_chaka2009-07-12

 信仰と家族,仕事の間でどのようにバランスをとって人生を歩むべきかを説いた一風変わったビジネス書。筆者自身の生活習慣を披露していることもあって,内容は具体的かつ実践的である。米国の経営幹部の私生活の一端を見ることができ興味深いが,日米の宗教観や家族観の差も感じさせられる書である。
 筆者は米Intelの上級副社長で,80386/i486/Pentium Proの設計者として知られる半導体業界の有名人。評者はIntel関連の書籍を可能な限り読んでいるが,何度もインタビューしているPat Gelsingerが著書を出しているのは日経コンピュータの編集後記を読むまで知らなかった。迂闊だった。それにしても,こんなに信仰に篤い人物だったとは驚きである。かなり印象と違う。ちなみに筆者は,「80386の全てを知る男」「Intelで最も出世が早い男(32歳で副社長,35歳で経営会議入り)」「高卒で技能職からスタートして,技術のトップCTO(Chief Technology Officer)に昇格した」などエピソードに事欠かない人物である。
 筆者がもっとも重視するのが信仰。次に家族,最後が仕事である。「偏執狂だけが生き残る」を標榜するAndy Groveが率いていたIntel で大成功をおさめながら,仕事がもっとも優先度が低いというのも凄い。本書では,ハード・スケジュールをやりくりして信仰と家族の時間を確保する方策を披露しているが,並外れた体力と使命感がないと真似できそうにない。
 Intel に関する記述はごくわずか。それでも Grove がメンター役を買って出たエピソードや,Grove 肝いりのプロジェクトよりも家族との時間を優先した話,信仰心が社内で物議をかもした事件など,興味深い内容が含まれる。Gordon Moore や John Crawford ,Ron Smith といった懐かしい名前が登場するので,それなりに楽しく読める。ちなみに,扉のページには「本書は個人的な見解を述べたものであり,Intel の見解とは無関係」との一言が入っている。