指揮権発動〜造船疑獄と戦後検察の確立〜,渡辺文幸,信山社出版,p.240,¥2625

minami_chaka2009-07-19


 1954年の造船疑獄事件における指揮権発動の背景に迫った書。指揮権発動から生まれた「正義の特捜」対「巨悪の政界」といった構図が幻想に過ぎないことを,関係者の証言をもとに明らかにしている。知られざる歴史の舞台裏を描いた一級のノンフィクションといえる。
 民主党小沢一郎・前党首への献金問題(いわゆる西松事件)を契機に検察の姿勢に批判が集まり,日本政治が転換期にさしかかっている今,お薦めの書である。ちなみに西松事件東京地検を厳しく批判している 特捜 OB の 郷原信郎(現在は名城大学コンプライアンス研究センター長)は,日経ビジネスオンラインに寄せた寄稿で,「戦後検察史の核心を突く迫真のノンフィクション」と本書を紹介している。
 著者は法曽担当の元・共同新聞記者。造船疑獄事件当時の政治状況と検察庁内部の権力闘争を丹念に追いながら,指揮権発動にいたる過程を明らかにする。鳩山やら麻生といった名前がしきりに登場するし,造船疑獄自体も政治献金にまつわる話で,この50年以上も進歩がない感じで情けない。造船疑獄事件の主役ともいえる佐藤栄作自由党幹事長の「検察は報道によって世論を作り,それをバックにしてやろうとする」という批判とか,指揮権発動は「吉田茂が指揮権発動ができるという形を見せたかった」「検察の正義よりも威信を優先した」という関係者の証言を読むと,日本の政治や社会の宿痾を見る気がする。