本気で巨大メディアを変えようとした男〜異色NHK会長「シマゲジ」・改革なくして生存なし〜,小野善邦,現代書館 ,p.369,¥2415

minami_chaka2009-08-04

 NHK会長だった島桂次,通称シマゲジの評伝。島といえば,国会での嘘の発言や女性スキャンダルによって失脚した人物というのが評者の認識である。本書は,こうした“通説”に反論を加えつつ,先見性に富んだ島のNHK改革を紹介する。筆者がNHK時代の腹心だったということを割り引いて読むべきだが,それでも島の魅力に十分迫っている。インターネットやグローバル化の進展を的確に見据え,現在のNHKの状況を約20年前に予見していた島の見識は大したものだ。NHKの官僚的体質や組合問題,政治とのかかわりなど読みどころ満載の書。マスメディアに関心のある方にお薦めしたい1冊である。
 島の記者時代のエピソードは読売新聞の渡辺恒雄に通じるところがある。記者の枠を超え,自民党の派閥(宏池会,特に大平との関係が深かった)に頭を突っ込み人事までも左右する。あまりに奥深くは入り込んだため,報じない(書かない)記者となった。もっとも過度の政治への関与と当選回数の少ない議員への横柄な態度が,田中派野中広務との対立を生む。それが島を追い詰める。このへんの自信が過信につながっていく様子を,筆者は生き生きと描いている。身近にいただけのことはある。時代を読む目をもつ島だったが,最後は政治や社会の変化を読み切れず引退に追い込まれていく。