知的創造のヒント,外山滋比古,ちくま学芸文庫,p.208,¥560

minami_chaka2009-09-01

 最近注目を集めているらしいので,久しぶりに読んだ外山滋比古。うまい文章の見本である。内容よりも,文章表現にえらく感心してしまった。本書は1977年に講談社現代新書として上梓したものの再刊である。当然だが,パソコンやインターネットの使い方への言及はなく,アナログの世界で閉じている。それでも古さを感じさせない。「知的創造のヒント」「知的生産の技術」といったテーマの基本は今も昔も変わらないと言うことなのだろう。
 本書の目的は,「覚える」ことには熱心だが「考える」ことを疎かにしている教育を補うというもの。まず著者は忘却することの重要さを説く。知識を詰め込み蘊蓄をたれるだけの糞詰まりを,知識人や物知りともてはやす世相を批判する。もっともだ。創造はグライダーではダメで,オンボロでもエンジンが必要という比喩は的を射ている。エンジンを動かして考えようとしている人たちに,筆者は気をつけておいた方がよいこと,頭の準備などについて多くの提示する。「知的な酒を造るには,素材と着想と寝かせる時間が揃ってなくてはならない」という著者の指摘は大いに納得できる。