実践 行動経済学〜健康,富,幸福への聡明な選択〜,リチャード・セイラー&キャス・サンスティーン共著,遠藤真美・訳,日経BP社,p.416,¥2310

minami_chaka2009-10-05

 行動経済学の適用法を分かりやすく解説した書。内容は具体的で,本の帯にある「“使える”行動経済学の全米ベストセラー」というのも必ずしもオーバーではなさそうだ。その分だけ,アカデミックさは感じられない。政治や企業だけではなく,個人の生活にも生かせる話が多いので一読をお薦めする。
 人間は経済的合理性ではなく,ヒューマンとして行動するというのが行動経済学の考え方である。経済学とはなっているが,どちらかというと心理学や認知科学に近い内容である。現実の経済を数式で定量的にではなく,むしろ人間の心理によって解き明かしていく手法は本書評でも取り上げた「ブラックスワン」や「アニマルスピリット」に通じる。
 原書のタイトルは“nudge”。聞き慣れない単語だが,英和辞書には「ひじでそっと突く, 軽く押す,(人の)注意を引く」などとある。本書は,あれこれ迷っている人をナッジして(ひじで軽くつついて),適切な選択をするように導くにはどうすればよいかを論じている。著者が提唱するのは,自由な裁量を相手にもたせながらも,所望の方向に導いていく「リバタリアンパターナリズム自由主義的な家父長主義)」と呼ぶ手法。国や自治体,企業が制度設計にリバタリアンパターナリズムを適用した具体例(401kや臓器移植など)を挙げているので議論に説得力がある。なかなか見事なストーリー展開である。
 ちなみに筆者が原則としているのは以下のNUDGESである。かなり強引だが,それなりに覚えやすい。
N=iNcentives(インセンティブ
U=Understand Mappings(マッピングを理解する)
D=Defaults(デフォルト)
G=Give feedbacks(フィードバックを与える)
E=Expect errors(エラーを予期する)
S=Structure complex choices(複雑な選択を体系化する)