日本の歴史 12:開国への道,平川新,小学館,p.370,¥2520

minami_chaka2009-10-19


 江戸時代についてもっている常識を覆す内容が満載された歴史書。開国までの過程を大航海時代の世界情勢のなかに位置づけ追っている。ステップを踏みながら江戸幕府は開国にいたったことがよく分かる。このほか,意外にも「世論政治の時代」だったことや,剣術道場の門下生の多くを百姓と町民が占めた「庶民剣士の時代」だったことなど,知られざる江戸時代の世相を明らかにする。事象を羅列した教科書的な記述が少なく,ダイナミックな歴史書として評価できる。
 江戸時代は,政策に民意を反映させる世論政治の時代で,その仕組みが260年の安定政権を支えたと指摘する。庶民の厳しい批判を幕府や藩が受け入れた懐の深さや政治的成熟度の高さには驚く。世論政治の事例として,灯油市場の改革を進めた下級役人・楢原謙十郎を取り上げる。官僚組織や既得権層と悪戦苦闘しながら進められた楢原の改革は,現在に通じるところも多い。大塩平八郎の乱天保の改革などを,通説とは異なる切り口で分析しているところも興味深い。