ビヨンド・エジソン〜12人の博士が見つめる未来〜,最相葉月,ポプラ社,p.285,¥1575

minami_chaka2009-11-30


 「絶対音感」「青いバラ」など切り口がユニークなノンフィクションを手がけ,評者がひいきにしている最相葉月の新刊。大学や企業の研究機関で働く12人の科学者へのインタビューをベースにしている。著者の科学技術への暖かいまなざしが伝わってくる良書である。
 筆者はあとがきで,「幼いころに読んだ伝記や評伝に感銘を受けて,科学者になったという人はいるのだろうか。それを知りたいという思いから取材を企画した」と語っている。企画自体は成功している。ただ,Webの記事を単行本にまとめたこともあって,粗い感じが否めない。深耕型という筆者の特徴が生かし切れていない。成り立ちを考えれば仕方がないが少し残念である。
 12人の科学者は,アフリカの風土病・睡眠病と闘う寄生虫学者,恐竜を追う古生物学者小惑星探査機「はやぶさ」プロジェクトに参加する宇宙科学者,南極の氷のなかに埋もれた「空気の化石」を研究する物理学者など,バラエティに富んでいる。女性の比率が高いのも特徴の一つである。
 科学者たちの仕事だけではなく,挫折や悩みといった面にも切り込んでいる。ちょっといい話など,科学者たちの意外な側面にまで踏み込めているのは筆者の力量だろう。ちなみに登場する偉人は,エジソン,キュリー,シュバイツァー中谷宇吉郎マンデラといった面々。変わり種としては数学者の藤原正彦が登場する。