ネット評判社会,山岸俊男,吉開範章,NTT出版,p.232,¥1680

minami_chaka2009-12-01

 「安心社会から信頼社会」「日本の安心はなぜ消えたのか」などの著作で知られる山岸俊男が日大教授の吉開範章とともに,ネット時代の安心・信頼について論じた書。ネット・オークションやネット通販を利用している方,ネットでのビジネスに興味のある方にお薦めである。コンパクトにまとまっているので,2〜3時間もあれば読めるだろう。
 ネット・オークションや電子商取引で利用されている安心確保の仕組みと今後のあるべき姿,ネット社会とリアルな社会における「評判」の受け取り方の違いなどについて論じている。本書の最大の特徴は,電子商取引の安心を高めるために“評判”を使うことの有効性を,実証実験で裏付けているところ。Amazon.comなどでの不正行為が,理論的に求めた予測値に比べはるかに低い理由を実験で明らかにする。
 筆者は,ネット社会における安心を担保する仕組みの未成熟さに警鐘を鳴らす。評価が妥当なのかどうかを評価する機能(メタ評価と呼ぶ)が存在しない。にもかかわらず,ネットでは評判が評判を呼ぶとことの危うさを指摘する。評判はどんどん増幅して,評判は事実という雰囲気が生まれる。日本のネットユーザーは,情報源や情報源の信頼性を確かめることなく,ネットの情報を鵜呑みする傾向が強いだけに,騙される可能性が高い。ネットの不正確な評価が実世界に影響を及ぼすことに,筆者は危機感を募らせる。示唆に富む内容が多い書である。