暴走族だった僕が大統領シェフになるまで,山本秀正,新潮社,p.237,¥1365

minami_chaka2009-12-07

 最初の数ページを読んで,「これは良書」と思わせる本に出会うときがある。本書もその一つ。米国の名門ホテルの料理長を務め,大統領就任パーティのシェフを経験した著者が半生記を綴ったもの。脚色があるとは思われるが,何となく勇気と希望がわいてくる。特に就活で悩んでいる大学生をはじめ,若い方々に読んで欲しい。評者のようなロートルが読んでも,心が軽くなる効能がある。多くの方にお薦めの1冊である。
 学生時代に暴走とサーフィンの明け暮れていた筆者は,父親の命令でイタリアの国立料理学校で料理人としての修行を始める。それからわずか6年後の28歳には,レーガン大統領の就任パーティにおけるシェフを務めるまでに腕を上げる。リッツ・カールトン ワシントンDCの総料理長になってからたった3カ月の大抜擢である。それにしても成功の階段の駆け上がり方がハンパではない。下からコツコツ積み上げていく日本式と大いに異なる,チャンスの国・米国の真骨頂を感じる話である。
 本書の特徴の一つは,小気味のいい人物評とレストラン評。とりわけ3人の米国大統領(レーガン,パパ ブッシュ,クリントン)とそれぞれの大統領夫人に対する,食事の嗜好を通した人物評は実に興味深い。なるほどと思わせる。調理法や食材,レストランの仕組みについての蘊蓄話も盛りだくさんなので,この方面に興味のある方も楽しく読める。