デジタルコンテンツをめぐる現状報告〜出版コンテンツ研究会報告2009〜、 ポット出版、出版コンテンツ研究会、岩本 敏、小林 弘人、佐々木 隆一、加茂 竜一、境 真良、柳 与志夫、¥1890、p.208

minami_chaka2010-01-11

 出版やコンテンツ配信、印刷、行政といった各界の識者へのインタビューを軸に、出版業界の現状と今後について論じた書。聞き手は本書を出版したポット出版 代表取締役沢辺均氏。沢辺氏をはじめ、出版社、大学、印刷会社、官僚、コンテンツ流通会社、図書館、新聞社、放送局、弁護士と行ったデジタルコンテンツのステークホルダーが集まった「出版コンテンツ研究会」での議論がベースになっている。気心の知れた者同士のインタビューなので緊張感に欠ける面はあるものの、ポイントを外さない議論になっているのも事実。デジタルコンテンツに関心のある者には有益な内容が詰まった書である。
 興味深い議論を展開しているのは経済産業省の境氏とインフォバーンの小林氏。小林氏は日本版ワイヤードやサイゾー立ち上げの張本人とあって切れ味が鋭い。この書評で以前取り上げ、高く評価した「新世紀メディア論」の著者でもある。「出版社の人はテクノロジーに対してウブ」「ネットにおけるメディア事業を推進するのは“仕組みオタク”だが、そういう人は出版界に少ない。(紙にしか興味を持たない人間ばかり新卒でとっている)大手出版社は採用から考え直さなければならない」など、聞き手の沢辺氏がうまく誘導していることもあって出版業界の問題点を鋭くえぐっている。
 発想の転換を迫っているのが経産省の境氏。「コンテンツビジネスはモノではなく、権利を売る商売だと考えるべき」「複製について複製権として保護するのではなく、ライセンスとして保護すべき」「コンテンツを合法的に入手した人間が私的に利用する目的であれば、複製はライセンスの一部として全面的に認める」など大胆な発言をしている。