JR福知山線事故の本質〜企業の社会的責任を科学から捉える〜,山口栄一,NTT出版,p.213,¥1365

minami_chaka2010-02-21

 JR西日本の企業体質に疑問を投げかける書。同志社大学教授である筆者がMOTの観点から事故を論じる。JR福知山線事故の原因を科学的に検証するだけではなく、事故の体験者の体験とリハビリの日々も記録している。あの事故は何だったのかがよくわかる。安全・安心の技術に携わる方々に読んでほしい良書である。
 JR福知山線事故は科学的に予想でき、しかも回避可能な「転覆」事故だったと筆者は断じる。例えば事故現場付近で制限速度は120kmから70kmに突如切り替わる。安全基準は現場の感覚とズレていた。現場のカーブの曲率半径を304mではなく600mにすれば事故は防ぐことはできたし、カーブを緩くすることは十分可能だったことを明らかにする。
 原因はすべて運転士にあると思わせようとするなど、JR西日本が行った一連の情報操作に筆者は疑問をなげかける。例えば原因究明のためのシミュレーションで、JR西日本は非現実的な数値を使うように鉄道総合技術研究所に強いたという。これによって、事故現場の制限時速の値は大きく異なり、JR西日本が有利となる(運転手が不利になる)。「転覆」を「脱線」と呼ぶ言葉のすり替えも厳しく避難する。事故が「転覆」であって、線路の物理的状況やさまざまな外的要因、車輪や車体の整備不良など予測不可能性によって企業責任が軽減される「脱線」ではなかったいうのが著者の主張である。