知事抹殺〜つくられた福島県汚職事件〜、佐藤栄佐久、平凡社、p.340、\1680

minami_chaka2010-03-15

 福島県知事だった佐藤栄佐久が、ダム工事をめぐる汚職事件で辞職し、逮捕されたのは妙に記憶に残っている。賢兄愚弟ともいえる構図、国策捜査ではないかという検察への批判など、当初から話題に欠かなかった。1審で懲役3年・執行猶予5年、2審で懲役2年・執行猶予4年の判決を受けたが、中身的には実質無罪という評価が少なくない。現在控訴して、最高裁で争っている。本書は佐藤栄佐久自らが筆をとり、検察とマスコミへの批判を展開した書である。
 被告の視点であることを割り引く必要があるが、佐藤が主張するように不可解な点が少なくない事件と言える。東京地検特捜部、東北出身の政治家、公共事業をめぐる疑惑など、小沢一郎の政治資金問題と似た構図になっており興味深い。
 本書を読むまで、佐藤栄佐久が知事になるまでの経緯や、知事時代の業績について寡聞にして知らなかった。知事のあいだの確執、政治家や官僚との関係なども目新しい。それにしても、中央とことごとく対立した改革派知事だからといって、なぜ逮捕に至るのか本書を読んでもイマイチ分からない。「佐藤知事は日本にとってよろしくない、抹殺する」とまで東京地検特捜部に言わせたものは何なのか。中立的な視点をもち、多角的な取材に労をいとわないノンフィクション・ライターの出番だろう。