代替医療のトリック、サイモン・シン、エツァート・エルンスト、青木薫・訳、新潮社、p.462、\2520

minami_chaka2010-04-18

 「フェルマーの最終定理」「暗号解読」を著した科学ジャーナリスト サイモン・シンが、代替医療分野で世界初の大学教授となったエツァート・エルンストと組んで代替医療の問題点に切り込んだ書。ここでいう代替医療とは、生物学的に効果があると考えにくい医療を指す。本書では、鍼、カイロプラクティックホメオパシー、ハーブ療法を中心に取り上げ、「いかさま療法」などと手厳しく批判している。結論は見えているテーマではあるが、サイモン・シンらしく読み応え十分な書に仕上がっており、お薦めの1冊である。
 代替医療には一見効果があるように見えるものも存在する。しかし、多くはプラセボ効果(偽薬)によるもの。科学的な根拠がなく、危険なものや悪くするとにかかわるものさえ存在する。効果があるとしても限定的で通常の医療行為によるものと大差ない。しかも費用は格段に高くなる。代替医療を受ける合理的な理由はないというのが著者の主張である。サイモン・シンらしく代替医療の歴史を振り返るとともに、多くの文献と関係者にあたることで説得力を増している。
 効果が証明されていない医療を広めた責任者にも言及している。責任者としてやり玉に挙げるのは、セレブ、医療研究者、大学、メディア、政府と規制担当当局、WHO(世界保険機構)などである。英国のチャールズ皇太子にも容赦ない批判を加えているのは、なかなか凄い。責任者のトップ10にWHOが出てくるのは少々驚くが、本書を読むとその不可思議さと責任の重さがよくわかる。
 詳しく取り上げられなかった代替医療については、巻末に見開き2ページで解説している。結腸洗浄、催眠療法アロマセラピーサプリメント、酸素療法、指圧、スピリチュアル・ヒーリング、デトックスなどが並んでいる。興味のあるところを拾い読みすればよいだろう。