エセ理詰め経営の嘘、伊丹敬之、日経プレミアシリーズ、p.230、¥893
プレジデント誌で連載中のコラム「経営時評」を単行本化した書。ピックアップした期間は2006年1月から2010年1月。今となってはピンとこなかったり陳腐化した話も含まれているが、リーマンショックを含む激変の時期を振り返る上で役に立つ。その意味で、初出の時期を明記しているのは親切である。「私の予想は当たった」風の自慢話が何カ所か出てくるのは興ざめだが、逆に「当たらなかった予想もあったのでは?」と考えてしまうのは職業病なのかもしれない。
タイトルの「エセ理詰め経営」は、なかなかキャッチーである。ついつい手が伸びてしまった。筆者は、「当社の現状を考えると、これが当面のベスト」と理論武装し、チマチマした差別化やばらまき技術投資に終始する経営を「エセ理詰め経営」と呼ぶ。将来の見取り図や戦略性のない経営者が目先の論理を重箱の隅をつつくように詰めた結果が、日本企業低迷の原因だと見る。「過剰設備の危険があるから投資は控えめにしなければならないし、不況期で資金的も苦しい」と、一見理詰めの舵を取ったことがサムスンの後塵を拝する現状を生んだと分析する。
本書は4章から成る。(1)日本企業とアジアの明日を考える、(2)アメリカ経済は本当にもつのか、(3)筋道の通った経営改革とは、(4)危機を乗り越える経営、である。前半は精彩に欠けるところがあるが、後半になると俄然盛り上がる。例えば日本企業の問題点は、社内外のしがらみにとらわれ、決断のできない経営陣による「こわごわ経営改革」「そろりそろりの戦略転換」にあると断じる。「素朴に考え、思い切って動く」べきだと説く。「技術はあるのに技術経営が下手」という、ありがち議論も登場する。ソニーや日立の不振の本質的原因は現場ではなく本社の経営にあり、全社的な経営の失敗のために、せっかくの技術まで蝕まれたと論じる。