電子書籍の衝撃、佐々木俊尚、ディスカヴァー・トゥエンティワン、p.303、¥1155

minami_chaka2010-05-11

 電子書籍の歴史と現状、突如ブレークした背景をサポーターの観点から手際よくまとめた書。電子書籍が「本を読む」「本を買う」「本を書く」ことに、どういった影響を与えるかを論じている。目新しさはないが出版業界の問題点にも切り込む。電子書籍や出版業界の状況を手っ取り早く知りたい方にはお薦めである(実際に電子書籍を使うのが一番だが、そうそう投資はできない)。著者は毎日新聞記者、月刊ASCIIの記者を経て、現在はアルファブロガーとして知られるフリージャーナリスト。電子書籍を語らせるには適任だろう。
 新しいもの好き、IT好き、年間100冊を超える本を読み、しかも出版を生業とする評者は、電子書籍に強い関心を持っている。Kindleには食指が動くし、iPadウィッシュリストに入っている。電子書籍なら部屋から溢れないし、家族から疎まれることもなくなる。技術の伸び代の大きい電子書籍端末の将来性は認める。電子書籍に適した書物があるのも確かだろう。
 しかし疑問も感じる。しょせん読書は趣味である。リラックスして読みたい。歳をとったせいだろうが、ディスプレイ上の活字は頭の中を通り過ぎてしまう。没入感に欠ける。この書評で時々取り上げる、歯ごたえ十分の書はやはり紙で読みたい。好奇心や取材目的以外に、紙で読めるものをあえて液晶や電子ペーパーで読む必然性があるのだろうか。
 実は筆者も紙の書籍を否定している訳ではない。電子書籍は、出版文化の破壊ではないと繰り返し述べている。プロフェッショナルリズムに欠ける出版社や編集者の現状を嘆いているのだ。よく読むと本書は、電子書籍だけではなく出版社への応援歌ともなっている。