競争と公平感〜市場経済の本当のメリット〜、大竹文雄、中公新書、p.245、¥819

minami_chaka2010-05-27


 著者が5年前に著した「経済学的思考のセンス」の続編として企画がスタートした書。調査や定量的研究を参照してながら持論を展開するところは、著者の出世作『日本の不平等―格差社会の幻想と未来』と同じ手法で安心して読める。説得力のある論理構成は一読の価値がある。
 ただし、タイトルの「競争と公平感」に期待して読むと失望するかもしれない。確かに第1章はタイトル通りの内容である。日本は資本主義国家にもかかわらず市場競争や格差に対する拒否反応が強く、中国やロシアよりも市場に対する信頼が低かったり、市場で格差がつかないことを重視する国民性を明らかにする。
 議論はメディアや教育にも及ぶ。市場主義が大企業を保護する大企業主義と同一視されてしまったり、教科書が市場競争によって豊かになれるというメッセージを伝えず、市場の失敗と独占の弊害ばかりを強調してきた日本の特異性を論じる。日本人の市場(他人)に対する信頼感の低さは、本書評でも取り上げた「安心社会から信頼社会」「日本の安心はなぜ消えたのか」といった山岸俊男の主張と通じるところがある。
 第2章以降、話は四方八方に飛ぶ。「経済学的思考のセンス」に関する筆者の持論が展開される。「出生児の低体重とその後の社会経済的状況に関する因果関係」「いま流行の行動経済学」「心理学や脳科学と経済学との関係」「年金・医療の問題」「消費税表記(外税、内税)と売れ行きの関係」などなど。肩の凝らない話が続くので、これはこれで悪くない。