奇跡の脳、ジル・ボルト・テイラー著、竹内薫・訳、新潮社、p.227、¥1785
脳科学者が脳卒中で倒れた体験を綴った書。37歳の筆者を突然襲った脳卒中の症状を、科学者らしく冷静に分析しているのには驚く。しかも自らの専門分野だけに示唆に富む指摘が多い。時系列で症状の変化、手術、リハビリの様子を詳細に述べているので、追体験しているような気になる。ちなみに本書が書かれたのは、病魔に倒れてから10年後(リハビリに8年間かかったという)。ある程度は記憶違いはあるかもしれないが、貴重な体験談ということに変わりはない。凄い本である。
読み応えがあるのは、脳卒中が発病してから病院に担ぎ込まれるまでの経緯。身体の不調を脳卒中と気づくまでの心の動き、左脳の機能が失われたため数字を認識できなくなった状況で電話をかけることの難しさ、電話口の相手に自分の緊急事態を伝えることの大変さなど、実体験に基づいているだけに説得力をもって迫ってくる。
本書の後半は少し不思議なトーンになる。「右脳マインド」「左脳マインド」といった話が展開されるが、内容はちょっと神秘主義的。正直、評者のレベルではついていけない。脳死体験と同様、脳卒中を経験する、生死の境をさまようというのは、こういうことなのかもしれない。