[書籍ゲームの父・横井軍平伝〜任天堂のDNAを創造した男〜、牧野武文、角川書店、p.225、¥1470


 任天堂のゲームの基礎を築いた横井軍平の評伝。横井のゲーム開発人生と横井が「枯れた技術の水平思考」と呼んだ発想法を追っている。数々のゲームの開発秘話は楽しく読めるし、技術者にとって示唆に富む話が多く、お薦めの1冊に仕上がっている。
 「枯れた技術の水平思考」とは、最先端技術を追って他社との差別化を図るのではなく、使い勝手を工夫したり、枯れた技術をひとひねりして使うことで、これまでにない体験ができるゲームを開発する発想法を指す。最先端の技術に頼った差別化は、横井にすれば「アイデアをひねり出すのを怠り、安易な方向に流れている」ということになる。
 それにしても横井が開発したゲームやおもちゃは実に多彩。ウルトラハンド、ウルトラマシン(家庭用ピッチングマシン)、ラブテスター、光線銃、ゲーム&ウオッチゲームボーイバーチャルボーイワンダースワン任天堂退社後に立ち上げた会社が開発し、バンダイが発売)などなど。ウルトラハンドとウルトラマシン、光線銃は小学生時代に欲しかったおもちゃだし、バーチャルボーイ開発時には横井に取材したこともある。評者にとって懐かしさにあふれた書である。それにしても横井が、ワンダースワン発売前に交通事故で亡くなったのがつくづく惜しまれる。]