数字で世界を操る巨人たち、スティーヴン・ベイカー著、伊藤文英・翻、武田ランダムハウスジャパン、p.312、¥1890


 応用数学が社会に大きな影響を与えていることを、ビジネスウィーク誌の元記者らしく豊富な取材をもとに明らかにした書。膨大なデータをかき集めることで人間の振る舞いをモデル化し、そのモデルを基に人間の行動を予測する最先端のマーケティング手法を紹介している。マーケティングに興味のある方にお勧めなのはもちろんだが、社会の底流での動きを知りたい方にも向く。
 企業の人事政策、ショッピング、選挙活動、テロ対策、病気の治療、結婚紹介ビジネスなどを事例に挙げ、膨大なデータからどのように意味のあるパターンを引き出しているのかを紹介する。ユーザーが興味を持ちそうな商品を表示して購買意欲をそそるネットサイトといった、ありきたりの事例も登場するが、声の変化でパーキンソン病を発見したり、電子メールの内容から認知症の進行を知る病気検査/治療法など、興味深い話も盛り込まれており読者を飽きさせない。
 一方で、知らないうちに情報を収集される社会の怖さを感じる書でもある。そもそも数学的なモデル(金融工学)が、Black Swanと呼ばれる予測不能な事象に無力なのは、今回の世界金融危機から得た教訓である。