コミットメント〜熱意とモラールの経営〜、DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー編集部、ダイヤモンド社、p.270、¥11890


 ハーバード・ビジネス・レビュー(HBR)に掲載された論文を“コミットメント”というキーワードで集めた書。米IBMの事例が中心に、社員の仕事に対する情熱を企業戦略を遂行するエンジンとするにはどうすべきかを論じる。米IBMを崖っぷちから救ったガースナーの改革を、違いをなくす(均質化)という長年の目標を捨てて、違いを増やす(多様化)方向にシフトしたという切り口で論じていて新鮮である。HBRの論文は翻訳調が気になり毛嫌いしていたが、本書を読んでちょっと印象が変わった。翻訳調は確かだが、少し我慢して読むと役に立つ内容が多く有用だ。食わず嫌いはよろしくない、そんなことに気づかされる1冊でもある。
 本書が論じる「社員の熱意と士気を高める仕組みと仕掛け」は難しい問題だが、本書は豊富な事例と秀抜な図を駆使して、説得力のある議論を展開している。とりわけ興味深いのは第3章。「業績は『権限と責任』に従う」と題した章で、社員に対して管理範囲、責任範囲、影響範囲、支援範囲をどのように設定すればよいかを解説する。実効性はともかく、議論の切り口は鮮やかだ。
 ガースナーがIBMにまいた改革のタネを根付かせたパルミサーノの手腕も実に見事。本書はパルミサーノへのインタビューと、社員が参加したネット上の対話集会「バリューズジャム」を紹介することで、IBM復活劇の裏側を浮き彫りにしている。苦境に喘ぐ日本企業にとって示唆に富む事例といえる。