銃・病原菌・鉄〈上巻〉〜1万3000年にわたる人類史の謎〜、ジャレド・ダイアモンド著、倉骨彰・訳、草思社、p.317、¥1995


 ピュリッツアー賞や、朝日新聞が選定した「ゼロ年代の50冊」で1位をとるなど高い評価を受けている書。ずっと読みたいと思っていたが、上下2冊で計600ページを超える分量に尻込みしていた。一念発起で読み始めると、出来のよいミステリーを読むようで実に面白い。壮大な人類史を、自然科学者(生物学者)らしい明快な切り口と論理展開で綴っている。眠気を催すような歴史書とは一線を画す良書である。正月休みなど、ゆっくり時間がとれるときの読むことをお薦めする。
 本書は、人類を巡る数々の疑問に応える形で議論を進める。ニューギニアの例に始まり、なぜ先進国と発展途上国の差は生まれたのか(なぜ世界の富と権力の分配が現在の形になったのか)、スペインはインカ帝国を征服できたのか(なぜ欧州は新大陸を征服できたのか、逆はなぜ起こらなかったのか)などについて議論を展開する。上巻では、農耕の起源と拡大の過程、狩猟民族と農耕民族の関係、野生から農作物や家畜への転換、人類史における病原菌の役割に焦点を当てる。
 筆者の基本スタンスは、「歴史は、異なる人びとによって異なる経路をたどったが、それは、人びとのおかれた環境の差異によるよるものであって、人びとの生物学的な差異によるものではない」ということ。地形や天候、緯度経度といった環境が発展の度合いを左右したことを、緻密な議論で明らかにする。その手際は見事である。