無縁社会〜“無縁死”三万二千人の衝撃〜、NHK「無縁社会プロジェクト」取材班、文藝春秋 、p.272、¥1400
身元が分からない死亡者は、身長体重、推定年齢、死亡時の状況などの情報とともに「行旅死亡人」として官報に記載される。その数は1年に1万人ほど。身元が分かっても親族から引き取りを拒否され、行政によって公費で火葬・埋葬される人数を合わせると3万2000人に達する。こうした無縁死を扱い話題を呼んだNHKスペシャル(2010年1月放送)にも基づいたノンフィクション。内容は重く読んでいて辛いが、今の世代が正面から向かい合うべき内容であり、多くの方に読んでほしい良書である。
急増する無縁死を生んだ社会的背景、無縁死を前提にしたビジネスや社会システムに迫るとともに、孤独死に至るまでの経緯や人間関係を詳細に追う。日本社会で進行する病を、時間をかけた丹念な取材で明らかにしている。無縁死までの人生をたどると、ほとんどが普通の生活を営んでいた人々だったことをNHKの取材班は明らかにする。
家族の絆の希薄化、生涯未婚の急増、社縁の切れ目が縁の切れ目など、無縁死につながる要因は多い。親族は存在しても「迷惑をかけたくない」といった心情から、自ら無縁を選択するケースも少なくない。ちょっとしたキッカケや行き違いが無縁死につながっていく。誰にでも起こりうる話であり、それだけに恐ろしい。