ストーリーとしての競争戦略〜優れた戦略の条件〜、東洋経済新報社、楠木建,

p.518、\2940

 本書の主題は「成功する経営戦略には、思わず人に伝えたくなるような生き生きとしたストーリーがある」「一見不合理な戦略が競争優位を生む」「個々には合理的な経営戦略が、合体すると合成の誤謬を生み失敗につながる」。500ページを超える紙幅を使い数々の事例を挙げながら、こうした持論を展開する。書き口が軽妙なので、あまり大部という感じがしない。読むのに時間がかかるが、お薦めの経営書である。
 著者の主張のポイントは、シンセシス(総合)の重要性を説いているところ。経営戦略は個別戦略ではなく、全体として評価しなければならないとならないと主張する。本来なら動画であるはずの経営戦略が、無味乾燥な静止画の羅列になっているとうのが著者の見立てである。戦略をつくる仕事が「項目ごとのアクションリスト作り」にすり替わっていると、わけ知り顔のコンサルタントが作るバズワードだらけのPowerPointのスライドに踊らされる愚を鋭くつく。
 取り上げている事例はなかなか魅力的。マブチモーターガリバーインターナショナル、アマゾン、サウスウエスト航空スターバックスなどを、ストーリーという切り口でうまく料理している。刺激的な指摘にあふれた良書である。