競争の作法〜いかに働き、投資するか〜、齊藤誠、ちくま新書、\777、p.233


 日本経済に関する多くの勘違いを指摘し、日本経済が再生し「日本人が本当の意味での豊かさ」を得るためのヒントを与えてくれる書。けんか腰の語り口はなかなか強烈である。ジャーナリズムや論壇で派手に立ち回りたわけたことを言っているエコノミストや経済評論家を、「ただのバカ」だと一刀両断で斬り捨てる。「2010年度エコノミストが選ぶ経済図書ベスト1」に選ばれたのも分かる。目から鱗の指摘が多いお薦めの1冊である。
 2002年から2007年にかけて日本は「戦後最長の景気回復」を果たした・しかし給与水準は上がらず、多くの人は生活が向上した実感をもつことはなかった。実はこの時期に日本経済は脆弱性を抱え、リーマンショックが起こらなくても経済崩壊の危機に瀕していた。その理由はどこにあるのか、経済成長がなぜ幸福に結びつかないのか、といった疑問に本書は明快に答える。
 いまの日本に必要なのは、適正な市場原理の活用だと筆者は論じる。日本社会は多数の安堵のために市場原理から逸脱した。そのために労働の現場や金融の現場、教育の現場で多くの人々の能力がどうしようもなく低下し、規律が目も当てられないほど劣化した。日本社会はいま、市場原理に基づく働き方と投資の見直しが求められていると筆者は説く。
 ちなみに御用学者やお調子者の評論家だけではなく、「経済危機を煽りたい政治的な勢力の言いなりになっている」と、マスコミにも辛口である。定見もなく、現実を見ようとせず、数字を読み取り自分で考えることをしない輩として厳しく批判する。耳が痛い。