「社会的入院」の研究〜高齢者医療最大の病理にいかに対処すべきか〜、印南一路、東洋経済新報社、p.404、¥3780


 日本の高齢者医療制度が生み出した「社会的入院」。その現状と問題点、対策を論じた書。ここで言う社会的入院とは、医療行為が不要な状態にもかかわらず家族や医療機関の意向で高齢者が入院状態を続けることを指す。本書は社会的入院を生み出すメカニズムを解き明かし、日本の医療制度の問題点を論じる。介護が必要な高齢者を抱える人間の胸に、ズシンと響く良書である。
 筆者は、病院が病人を作る日本の医療制度を厳しく批判する。日本の病院の安静第一主義によって、心身の機能が低下する「廃用症候群」が生み出され、高齢者を寝たきり状態にしてしまう。治療のために入院した病院での社会的入院によって、人生の最後が台なしになってしまう。
 日本の医療制度の病巣は低密度医療にあると筆者は指摘する。一般病床が過剰で、病床あたりの医師数や看護師数が少ない。医療の密度は稀薄にならざるを得ない。低密度の医療しか提供できないから、手のかからない患者を漫然と入院させた方が病院経営上プラスになる。低密度医療は一般病床で始まり、療養病床に引き継がれる。しかも要介護度に基づく支払い制度のせいど、介護施設に寝たきりと認知症の患者があふれることになる。
 筆者は返す刀で、病院志向の根強い日本社会にも切り込む。患者にも家族にも、病院にいれば安心という病院信仰がある。これに介護力不足と介護忌避、介護保険制度の不十分さが加わり、不適切な社会的入院を生み出す。ちなみに社会的入院が解消すれば1兆5000億円の医療費が低減されると、筆者は試算している。