認知症と長寿社会〜笑顔のままで〜、信濃毎日新聞取材班、講談社現代新書、p.272、¥798


 読売新聞の名物記者だった故・黒田清の言葉「報道とは伝えることやない、訴えることだ」が頭をよぎる書である。本書は医療関連のルポルタージュで定評のある信濃毎日新聞が、長寿社会の実情を足を使って取材したもの。2010年1月3日から6月29日にかけての連載が基になっている。
 先日推薦マークをつけた『「社会的入院」の研究』が統計データや研究資料を駆使してロジカルに長寿社会の問題点を指摘していたのに対し、本書は感情に強く訴えるところに特徴がある。日本の医療制度が生んだ社会的入院だが、家族の苦しい事情を聞くとむげに断れない病院関係者のコメントなどを読むと、理論と現実のギャップを感じさせられる。
 本書が扱うのは、介護する家族、認知症の老人を受け入れる介護施設や社会、認知治療の受け皿となっている精神科の病棟、認知症治療の研究と臨床の最前線、高齢化した地域など。現場に足を運び、当事者への取材を重ねながら認知症と長寿社会の抱える課題と解決策を探る。現場を丹念に取材した力強さがある良書である。