フォールト・ラインズ〜「大断層」が金融危機を再び招く〜、ラグラム・ラジャン著、伏見威蕃・訳、月沢李歌子・訳、新潮社、p.318、¥1995
リーマンショックの原因を分析した書籍として、欧米で高い評価を得ているビジネス書。帯にはBusiness Books of the Year 2010を受賞したとなっている。確かに高い視点から米国および世界経済を俯瞰し、過去の歴史を踏まえながら、なぜ金融危機が起こったかを丁寧に論じている。得るところの多いビジネス書である。
筆者であるラグラム・ラジャンは、金融危機を2005年に予言したとされる米シカゴ大学経営大学院教授。「米国でいま最も注目を集める経済学者」といわれる。本書にはジャスミン革命を予言するような記述もあり、いま乗っている経済学者というのは間違いなさそうだ。議論が多岐にわたり頭の整理がつきづらいところもあるが、一読の価値はある。
筆者は金融危機を引き起こした原因が、フォールト・ラインズ(断層線)にあると指摘する。ここでいう断層線は、富裕層と貧困層、輸出国と輸入国、先進国と新興国といったギャップを指す。このギャップのあいだに蓄積したエネルギーが拡大し均衡を失い破断した結果、経済危機が生じたと分析する。例えば米国の富裕層と貧困層のギャップは政治的な圧力を生み、住宅ローン拡大を促す政策を政府にとらせた。サブプライムローンといった粗悪な金融商品に対する監視が行き届かなくなり、金融危機の原因の一つになったと結論づける。
本書の特徴は複雑に絡み合う世界の政治、経済、社会システムを解きほぐし、金融危機の原因に迫っているところにある。第1に挙げるのは、前述の米国の経済政策。拡大した米国消費を、日独中といった輸出国が支え、輸出国と輸入国のあいだの依存関係が強まるとともに貿易不均衡は拡大を続けた。米国の消費が限界を超えて変調をきたすと、その影響は米国だけではなく世界にも及んだ。世界通貨危機となり負の連鎖が始まったのだ。
断層線は現在も存在し、今後も金融危機は必定である。筆者は後半部で、金融危機を周期的に起こさないための処方箋を書く。米国における金融改革だけではなく、教育や医療、セーフティネットの拡充などについて論じている。このなかでは失業対策(セーフティネット)に比較的多くの部分を割いているのが特徴的である。金融改革に際しては、「いかなる民間金融機関も政府の保護を受けてはならない」という主張も印象的である。