民意のつくられかた、斎藤貴男、岩波書店、p.222、¥1785
原子力、オリンピック招致、事業仕分け、選挙、道路建設、捕鯨問題などを切り口に、世論はどのように形成されていったのか、民意とは何かを追った書。巨額の広告宣伝費、誘導的な世論調査、営利的な非営利団体を切り口に関係者を取材して実態に迫っている。もともとは雑誌「世界」に掲載された記事。岩波書店と斎藤貴男の組み合わせなので、読む前から方向性が分かるが、思ったほどには岩波臭さは感じなかった。ありがちな切り口だが、日本社会の裏の実態を知ることができるノンフィクションなのは確か。
時節柄、原子力問題に8章のうち冒頭2章を割き、原子力に関する世論形成の舞台裏を明らかにしている。評価したいのは、1章、2章とも福島原発事故の前に雑誌「世界」に掲載されている点。1章が2010年2月、2章が2009年12月が初出。便乗組ではなく、少なくとも斎藤の目の確かさが分かる。内容的にも、大手広告代理店のマスメディアを巻き込んだ巧妙な広報宣伝手法、教科書検定の仕組みを使った原子力教育の実態を明らかにしている部分は読み応えがある。
国策PRと題した3章も刺激的である。原子力行政以外にも、国家が広告を巧みに利用して世論を誘導していることを明らかにする。事例として挙げるのが2008年から2009年に繰り広げられた「チーム・マイナス6%」キャンペーン。京都議定書で義務づけられた二酸化炭素削減を周知徹底するための広報活動である。無関係に見えるイベントを矢継ぎ早に繰り出すことで、国策の普及啓蒙を図った過程を明らかにする。