日本の歴史をよみなおす、網野善彦、ちくまプリマーブックス、p.237、\1260


 従来の農耕民中心の日本史観に疑問を呈し、漂泊民の視点から日本史を描く網野史観が色濃く出た啓蒙書。南北朝(14世紀)の前と後で、日本は大きく変わったという史観は興味深い。15世紀以降の社会の在り方は、現在の我々にも理解可能だが、13世紀以前は我々の常識では及びもつかない異質な世界だったと論じる。転換期にある現代の日本を考える上で、後醍醐天皇の出現によって日本が大きく変化した14世紀に思いを馳せるのも悪くないというのが筆者の主張である。この書評で取り上げた「中国化する日本」と通底する。ちょっと変わった日本史観に興味がある方に向く書である。
 本書は、文字、貨幣と商業・金融、畏怖と賤視、女性、天皇と「日本」の国号といった論点から14世紀の日本を論じる。特に絵巻物に描かれた人物を注意深く観察し、当時の庶民、特に漂泊民の生活や風俗を生き生きと再現するところに本書の真骨頂がある。