リスク化される身体〜現代医学と統治のテクノロジー〜、美馬達哉、青土社、p.252、\2520


 タイトルと中身に少しギャップがある書。なぜ「リスク」という言葉がさまざまな領域で使われ注目されるようになったのかを、医療・医学領域の状況から解き明かそうと試みた書。なかなかチャレンジングなテーマ設定であるし、ある程度は成功している。例えば筆者の本職である医療・医学分野に関する考察はなかなか鋭く読み応えがある。その一方で、医療・医学以外にまでスコープを広げた議論は、残念だが著者の思い入れが空回りしている。地に足が着いていない議論が多く、説得力が今一歩だ。
 筆者の言う「リスク化される身体」とは、物理的な人間の身体ではなく、検査数値や行動パターン、心理学的特性、ライフスタイルなどのリスクによって数値化された心身情報の集合体を指す。病気や健康への対処方法が原因を取り除く臨床的なアプローチから、確率論的な予防医学(リスクの医学)へとシフトしているという現状認識を示す。従来の臨床医学とリスクの医学を対比した議論は切れ味が鋭く読み応えがある。
 筆者はリスクの医学に懐疑的なスタンスをとる。リスクの医学では、症状や病気の有無とは無関係に、公衆衛生的な疫学研究によって見出されたリスクやリスクの組み合わせが、将来の疾病発生と関連するかどうかが重要になる。代表例がメタボリックシンドロームだ。国によってメタボリックの基準が異なっており、リスクの設定が恣意的になっていると指摘する。